人事職の全体像
労務職は本来、バックオフィス部門の一つである人事に分類される職種です。厚生労働省の職業情報提供サイトをもとに人事の全体像を整理すると、次図のようになります。
人事は人材の採用から退職まで一貫して関わる役割を持ちます。採用から退職までの間に、労働条件の決定や日々の勤怠管理や給与管理、人事制度の企画から運用、人材の能力開発まで、さまざまな業務が発生します。
労務の代表的な業務内容
さらに人事部門の業務の中から、労務の代表的なものを8つ説明しましょう。
①勤怠管理
始業・終業時間、時間外労働時間、休日・休暇、有給休暇の取得日数など、従業員の労働時間を正しく把握・管理する業務です。法定で決められている労働時間は原則として「1日8時間、週40時間」となりますが、所定労働時間の取り決めや変形労働時間制、フレックスタイム制などを導入している企業は、企業ごとに適切に勤怠管理を行う必要があります。
時間外労働の多い従業員にアラートを出す、有給休暇の残日数が不足する従業員が欠勤になった際の対応など、トラブル時も専門的知識をもとに、適切な判断を行います。
②給与計算・社会保険手続き
給与規定や勤怠状況、各種手当の取得状況をもとに、従業員の給与や賞与を計算する業務です。給与を算出する際は、労働者が加入する社会保険(厚生年金・健康保険・労働者災害補償保険・雇用保険・介護保険)をそれぞれ計算し、従業員ごとの給与から天引きし、必要に応じて国などに納付します。
社会保険以外にも、所得税や住民税、民間の保険や積立金などの手続きも適宜行います。
③福利厚生
福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」があります。法定福利厚生は、②で紹介した社会保険がメインです。法定外福利厚生としては、「慶弔・災害時の見舞金」「住居手当」「通勤交通費」「社員食堂」「リモートワーク手当」などがあり、会社が任意で導入するものです。
また、会社の義務ではないものの、働きやすい職場を整えるため、ユニークな福利厚生制度を企画運営しているケースも多いです。
④労働安全衛生法関連
労働安全衛生法とは、労働災害を防止したり、従業員の安全と健康を確保したりするための法律です。会社の規模や業種によって取り組む項目が異なりますが、健康診断やストレスチェックの実施は多くの会社で必要な事項です。
その他にも、衛生管理者や安全管理者、産業医といったスタッフの配置を実施する場合もあります。
ポイント
コロナ禍で在宅などリモートワークを導入する企業が増えていますが、リモートワーク中ももちろん労働安全衛生法の視点で、従業員の健康に配慮が必要です。例えば、リモートワーク中に仕事に適したデスク・椅子が用意できず、床に座って腰痛になった場合、労災とみなされるリスクもあります。
【参考記事】
SmartHRガイド「リモート時代の「あるある労働トラブル」を社労士・弁護士が斬る【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 前編】」
⑤就業規則の作成・変更・各種届出
従業員数が10名以上の会社では就業規則の作成が必須です[2]。就業規則には、労働時間や給与、従業員の健康に関する事項や懲罰規程など、会社と従業員間の大切なルールが記載されています。 初めて就業規則を作成する場合は、社会保険労務士や人事コンサルタントなどプロに依頼するのが一般的ですが、作成時のプロジェクトを労務が担うケースも多いです。
また、就業規則は一度作成したら終了ではありません、社内ルールの変更時の対応、各種届出を、法令に沿って実施する必要があります。
⑥年末調整
従業員の1年分の給与、税金を確定して精算する業務です。従業員に必要書類を配布し、記入内容や提出書類など手続の流れを説明し、期日までに収集して再計算、所得税の還付・追加徴収まで実施します。従業員数が多い会社や、従業員本人が年末調整を理解しきれていない場合、何度も説明し直すなどフォローが大変な業務です。
⑦労働紛争・労災トラブル・ハラスメントなどの対応
会社と従業員間で、残業代の未払いやハラスメントなどの個別紛争が起きた場合や、労災が起きたときなどに対応する業務です。解雇や雇止め、社内いじめやハラスメントといった事象が起きたときの窓口として、従業員や経営陣、相談先などへ聞き取り調査を行うなど、難易度の高い業務です。
⑧社会保険労務士や税理士・人事関連の協力会社の窓口対応
労務の役割は多岐にわたり、労働基準法をはじめとする各種法令を遵守しなくてはならないため、社会保険労務士や外部顧問などと協業する場合があります。協力会社と会社の間に立ち、情報連携を行う業務です。
注
[2]: 厚生労働省「モデル就業規則について」