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人事労務事件簿 | #19

合理的理由のないシフトの大幅減、権限の濫用に当たり得ると判断(東京地裁 令和2年11月25日)

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 シフト制の中で働く方は社会に大勢います。多くの場合、この方たちはシフトに入れなければ収入を得られせん。それだけに、労働契約を結んでいる会社側が合理的な理由なくシフトを大幅に減らすことは、「権限の濫用」だとして認められないことになっています。今回は、この点についての裁判所の判断などを見ていきます。

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「X」)と労働契約(以下「本件労働契約」)を締結し、雇用していた原告(以下「A社」)が、Xに対し、本件労働契約において、A社のXに対する債務目録記載の各債務の不存在確認を求める事案です。今回は様々な争点の中から、シフトの不当な削減による賃金請求権に関する内容を取り上げて解説します。

(1)当事者

 A社は、介護事業および放課後児童デイサービス事業を営む有限会社です。

 Xは、A社に平成26年1月30日付で雇用されたA社の従業員です。労働組合である練馬全労協・練馬地域ユニオンに加人しています。

(2)労働契約の概要

 A社とXは、平成26年1月、本件労働契約を締結しました。

 本件労働契約締結当時の賃金は時給950円、賃金の締日・支払日は毎月末日締め・翌月末日払いでした。

 雇用契約書(以下「本件雇用契約書」)には、就業場所としてA社の各事業所、業務内容は空欄、始業・終業時刻および休憩時間の欄には、「始業時刻 午前8時00分、終業時刻 午後6時30分(休憩時間60分)の内8時間」「シフトによる」旨の記載がありました。

 Xは、平成26年1月頃、介護職の求人サイトに掲載されたA社の求人広告を見て応募。同月16日、A社代表者およびF副社長と面接し、同月30日、A社との間で本件労働契約を締結しました。履歴書には、週3日を希望する旨の記載がありました。

(3)A社の運営状況

 A社は、高齢者介護事業所であるC2事業所、C3事業所、放課後児童デイサービス事業所であるC4事業所、C5事業所を運営していました。

 また、本社において訪問介護事業を行っていました。

(4)A社におけるシフト対応

 A社の各事業所の勤務体制は、各月に組まれるシフトによって決定されます。シフトは次のように決定します。

 前月の中旬頃までに各従業員が各事業所の管理者に、翌月の希望休日を申告します。各事業所の管理者は希望休日を考慮して作成したシフト表の案を、前月下旬頃に開催されるシフト会議に持ち寄り、話し合いを行います。各事業所の人員が適正に配置されるよう、人手が足りない事業所には他の事業所から人員の融通を行う等の調整を行った上、シフトが正式に決定されます。

 利用者が少ないときには、X以外のパート従業員も半日勤務になることがありました。

 介護事業所には、管理者、相談員、介護職、運転、入浴担当、アクティビティー担当等の役割があり、シフトでは少なくとも1人ずつ配置する必要がありました。

 Xは運転免許や相談員の資格を有していないことから、アクティビティー担当または入浴担当のシフトに入る必要がありました。

 Xがシフトに入った際の具体的な業務内容は、利用者である高齢者の送迎補助、レクリエーション指導、入浴・トイレ介助、食事介助および食事の準備等でした。

 A社のC2事業所においては、管理者、看護師1名は常勤であり、その他の介護士には常勤の職員と非常勤の職員がいました。

(5)Xの勤務状況等

①介護事業所における勤務

 Xは、平成26年1月にA社に入社後、当初は主にC2事業所での勤務を行っていましたが、同年6月、C3事業所での勤務となりました。

 その後、平成27年9月には、再びC2事業所における勤務が主となりました。いずれの事業所においても、同様の介護業務を行っていました。

 Xは、平成27年12月頃に認知症利用者を送迎した際、利用者の求めに応じて自宅内の荷物の移動を行ったことや、他の職員の指示を仰ぐため、入浴介助の際にXが1人にしても大丈夫だと判断した利用者を風呂場に1人きりにしたこと、またその他の業務状況について、F副社長やA社の他の職員から注意指導を受けたことがありました。

②児童デイサービスにおける勤務

 Xは、平成28年1月頃から、児童デイサービスにおける勤務シフトに入るようになりました。

 当初は、Xは異議をとどめず(不服を述べず)に応じていましたが、平成29年2月以降、児童デイサービスでの勤務のみとなってからは、不当配転と考えるようになり、異議をとどめて(不服を述べながら)応じていました。児童デイサービスにおける勤務シフトは、原則として午後の半日勤務でした。

③Xのシフトの状況

 Xの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間65.5時間)、同年6月は15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)でした。

 しかし、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減されました。

 そして、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなりました。

 なお、Xは、平成29年10月30日の団体交渉において、児童デイサービスの半日勤務には応じない旨表明し、平成30年3月19日の団体交渉において、児童デイサービスの勤務には一切応じない旨表明しました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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