タレントアクイジション(人材獲得)とは
アメリカにおいては、2013年頃から採用活動のトレンドが「リクルーティング」(採用)ではなく、「タレントアクイジション」(人材獲得)へと移り変わっています。
一方、日本においては、1990年頃には人材紹介や求人広告などを使って応募を待っている“待ち”の採用が主流でした。それから、2010年頃にダイレクトソーシングが流行り出し、外部の人材データベースにスカウトする“攻め”の採用へ移行していきました。しかし、これらは短期的な採用ニーズを充足させる「リクルーティング」にとどまっています。
これからは、より戦略的にタレントを獲得する「タレントアクイジション」へ移行していくと考えられます。タレントアクイジションとは、中長期的に転職潜在層から、会社を前進させる優秀なタレント(人材)を獲得することです。経営戦略に基づいて、将来から逆算して採用ターゲットを定義し、採用ブランディングを行います。そして、自社に認知・興味を持った採用候補者を蓄積してデータベースを構築し、中長期的にアプローチして獲得するのです。
採用チャネルとしては、自社の従業員の人脈から採用するリファラル採用や、卒業した社員の出戻りとなるアルムナイ採用、自社のデータベースにスカウトするタレントプール採用などを活用します。これらのように自社の資産を活用することで、持続可能な採用活動を行うことがタレントアクイジションです。
リクルーティング(採用)との違い
一方、従来のリクルーティング(採用)とは、社内の欠員募集を埋めるために、人材紹介や求人広告を用いて転職の顕在層にアプローチして採用することです。企業の差し迫った募集を満たす短期的な活動なので、会社の未来を成長させる戦略的な取り組みとはいえません。リクルーティングは、タレントアクイジションの一部の活動を意味します。
これまでの採用活動では、転職顕在層から応募を集めて採用し、採用に至らなかった場合は候補者とのつながりを放棄していました。しかし、より優秀な人材の獲得競争が激化している今、従来の採用活動から変革する必要があります。言い換えると、日本企業は、採用活動を“掛け捨て型”から“積み立て型”にシフトすることが求められているのです。
タレントアクイジションが加速するアメリカ
アメリカにおいては、2013年頃より「Recruiting is Marketing」という言葉が浸透し、“待ち”ではなく、戦略的に優秀な人材を獲得するタレントアクイジションの時代が到来しています。企業が「戦略的に投資したい」と答えた採用チャネルについても、ソーシャルリクルーティングやリファラル採用、オウンドメディア採用といったタレントアクイジションのチャネルが上位を占めています。
実際のところ、タレントアクイジションはビジネスの成長において、どれくらい重要なものなのでしょうか。例えば、世界の時価総額ランキング上位20社には情報通信関連の企業がいくつもランクインしていますが、これらの企業の競争力の源泉は無形資産です。
顕著な例はITエンジニアでしょう。アメリカでは「優秀なエンジニア5名は、平凡な1000名を凌駕する」とまでいわれています。単なる労働力として人材を確保するのではなく、ビジネスを加速させる優秀な人材の獲得が、企業価値を高める鍵になっているのです。
また、2020年8月からは、米国証券取引員会で人的資本の開示を求めるようになりました。それに伴い、人的資本情報を開示する国際標準「ISO30414」への注目度が高まっています。投資家も人的資本を見て投資を判断するほど、人材を獲得することが経営にとって重要な指標になっています。
一方、日本はどうでしょうか。世界の時価総額ランキングの上位20社に日本企業が多くランクインしていた1989年に比べ、今は1社も入っていない状況です。長らく製造業が優れていた日本企業においては、大量に新卒一括で採用をして、終身雇用で労働力として確保していました。この終身雇用・年功序列の文化から脱却しなければ、優秀な人材を獲得していくことができず、ひいては時価総額の高い企業が生まれてこないと、筆者は考えています。