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人事労務事件簿 | #24

性同一性障害の乗務員の化粧を認めるべきと判断(大阪地裁 令和2年7月20日)


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 人は、自分の常識から外れた行動をとる人のことを不愉快に感じがちです。中には嫌悪・差別する人もいます。今回紹介する事案は、化粧をする男性乗務員のタクシーに乗り合わせた客からの理不尽なクレームに対し、事実かどうかを確認もせず同意して就労拒否をしたタクシー会社が、当該乗務員から訴えられたものです。クレームの内容はにわかに信じがたくひどいもので、明らかに悪意を感じます。それなのに、化粧をする非常識さがそもそもの原因だとした会社側の対応は、社会通念的にも認められるものではないでしょう。

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1. 事件の概要

 本件は、タクシー会社(以下「Y社」)に雇用されているタクシー乗務員(以下「X」)が、Y社に対し、Y社の責めに帰すべき事由による就労拒否があったと主張し、民法536条2項に基づき、賃金の仮払いを求めた事案です。

(1)当事者

 Y社は、大阪市内を主要営業区域としたタクシー会社です。

 Xは、平成30年11月12日、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、同日以降、タクシー乗務員として勤務してきました。

 Xは、昭和35年生の男性であるところ、医師より性同一性障害との診断を受けており、生物学的性別は男性であるものの、性別に対する自己意識(以下「性自認」)は女性です。そのため、Xは、ホルモン療法の施行を受けつつ、眉を描き、口紅を塗るなどの化粧を施し、女性的な衣類を着用するなどして、社会生活全般を女性として過ごしていました。そして、タクシー乗務員として勤務中も、顔に化粧を施していました。

 Xは、令和2年2月7日以降、Y社での業務に従事していません。

(2)Y社の就業規則

 就業規則(平成30年12月28日より実施のもの)には、以下の定めがあります。

<22条>
  • (ア)1号
    「会社の信用、品位を失墜し従業員としての対面を汚す行為をしてはならない。」
  • (イ)2号(以下「本件身だしなみ規定」)
    「身だしなみについては、常に清潔に保つことを基本とし、接客業の従業員として旅客その他の人に不快感や違和感を与えるものとしないこと。
    また、会社が就業に際して指定した制服名札等は必ず着用し、服装に関する規則を遵守しなければならない。」
  • (ウ)24号
    「乗客に対しては丁寧な言葉使いを用いなければならない。暴言、悪態等の行為は絶対にしてはならない。」
  • (エ)48号
    「相手方の望まない性的言動により他人に不利益や不快感を与えたり(セクシユアルハラスメント)、パワーハラスメント行為を行ったり、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に定めるハラスメント等のハラスメントに該当する行為をしてはならない。別に定めるハラスメント防止規程を遵守しなければならない。」
<53条1項>
  • (ア)柱書
    「懲戒の種類及び程度は、その情状によりけん責、減給、出勤停止、降階、懲戒解雇の5種類とする。」
  • (イ)3号
    「出勤停止…始末書を取り乗務を禁じ出勤を停止して反省させる。ただし出勤停止期間は最高30日間を超えることはない。出勤停止期間は欠勤として取扱う。」
<54条1項>
  • (ア)柱書
    「従業員が次の各号の一に該当するときは、情状に応じて、謎責、減給、出勤停止、降階とする。」
  • (イ)2号
    「正当な理由なく業務上の指示命令に従わなかったとき」
  • (ウ)3号
    「素行不良で著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき」
  • (エ)4号
    「相手方の望まない性的言動により、円滑な職務遂行を妨げ、就業環境を害し、又は、その性的言動に対する相手方の対応によって、一定の不利益を与えるような行為を行ったとき、及び職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為を行ったとき、妊娠・出産・育児休業・介護休業に関するハラスメントのようなハラスメント行為を行ったとき」
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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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