資源から資本へ。投資対象として人を捉える
会社経営において、これまで従業員についてHR(Human Resource:人的資源、人材)と表現してきた。言葉だけでなく、雇用した従業員はリソースとして、いかに効率的に働いて成果を出してもらうかという観点からマネジメントする考え方が主流だった。そして、従業員に支払う給与や賞与は人件費(コスト)であり、会計上も費用として計上されているケースが依然多い。
しかし、ESGの非財務情報開示やISO30414による人的資本開示に見られるように、投資家を中心に、従業員をHC(Human Capital:人的資本、人財)と捉えて、企業成長の主要な資産として評価するようになりつつある。日々の業務や教育などのトレーニングを通して従業員を育成していくことで、従業員が事業成長のための資本となり、新たな価値や製品、企業自身を生み出していくからだ。
経営側は人財育成や労働環境改善のための費用を、コストではなく投資と捉えて、人的資本の成長につなげていく必要がある。この投資は、ダイバーシティ&インクルージョン、リーダーシップ、組織文化、スキルおよび能力向上、サクセッションプラン(後継者育成計画)、評価報酬制度など、様々な分野で行っていくことになり、経営としての人事戦略が必要になる。
一方、従業員の視点から見ると、企業が人財をどう捉えて、人財にどのような投資をしているのかは、就職先企業の選定における大きな評価項目ともなりえる。従業員を人的資本と捉えて積極的に投資することは、採用力の強化に直結するといえるだろう。もちろん、入社した後でもスキルアップができるか、成果を出せる環境が整っているかどうかは、離職率に影響する。その会社で働くことが楽しく、働きがいがあることは、従業員の満足度を向上させ、優秀な人財が長く定着することにつながる。
従業員の働きがいについては、働きがいについて世界的な調査を行っているGreat Place to Work(GPTW)が、「働きがいのある企業になることは、結果として業績向上につながる」という調査結果を公表している。従業員が活き活きとモチベーション高く働けることは、顧客満足度につながり、結果として業績向上につながる傾向があるというわけだ。そのため、企業には人事制度の整備だけでなく、「人財管理」も行うことを推奨したい。