リクルートマネジメントソリューションズ(リクルートMS)は、「個人選択型HRMと個人選択感に関する意識調査」を実施し、その結果を発表した。
調査の概要は以下のとおり。
調査の結果について、同社は以下のように述べている。
自社での仕事、働き方、キャリアの「個人選択感」に肯定的な回答は5~6割程度
「個人選択感」を選択感、希望尊重、将来展望の3つの観点から、それぞれ仕事、働き方、キャリアについて計9項目で測定したところ、5〜6割が肯定的な回答だった。「5.働き方に関して、自分の希望が尊重されている」「2.いまの働き方を自分で選んでいると感じる」が相対的に高い選択率だった(61.6%、61.2%)。
一方、「6.キャリア形成に関して、自分の希望が尊重されている」「9.今後、社内で自分に合ったキャリアを形成していける」が相対的に低い選択率だった(54.1%、52.3%)。働き方については、近年の働き方改革やコロナ禍で浸透したテレワークなどにより、会社の制度が整ってきていることの表れかもしれない。一方、キャリアについては、様々な環境要因による不確実性も高いため、不満や不安を感じているようだ。
個人選択型HRM(人的資源管理)施策の導入が個人選択感を高める結果に
すべての施策において、「導入あり」の方が「導入なし」に比べて、個人選択感が統計的に有意に高い。導入率が高く、導入の有無による個人選択感の得点差が大きかったのは、「5.フレックスタイムなど、働く時間を柔軟に選べる制度」「6.テレワークなど、働く場所を柔軟に選べる制度」であり、選択率は4割を超えた。同じく、導入率が高く、個人選択感の得点差が大きかったのは、「11.面談などで上司にキャリアについて相談できる制度」「12.希望する研修や講習を受講できる制度」であった。この結果から、上司のキャリア支援や能力開発支援の有無が、個人選択感に影響しているケースが多いようだといえる。
導入有無による個人選択感の得点差が大きいが、導入率は1割に満たない項目は「9.人事や社外の専門家にキャリアについて相談できる制度」「10.管理職・専門職を行き来できる等級制度」であった。導入難度が高い、あるいは必要性があまり認識されていない施策なのかもしれないが、個人選択感に及ぼす影響が大きい可能性が示唆された。
仮に実現しなくても異動希望を伝える機会がある場合、個人選択感は高まる
項目1~7の異動経験については、7項目すべて、2群間で統計的に有意な差が確認された。選択率は低いながら、「1.社内公募・社内FA制度などで、自分で手を挙げての異動が実現した」の個人選択感が最も高かった。自らの希望が叶って異動が実現した場合だけでなく、「2.人事や上司が自分に合った異動を提案してくれて、自分にとって良い異動が実現できた」「3.未経験の仕事への異動だったが、自分の成長機会となった」経験をした場合の個人選択感も高いことが確認できた。
ネガティブな異動経験では、「5.意図の分からない異動を命じられた」が、最も個人選択感を低めていた。項目8~10は希望が叶わず異動が実現しなかった経験であるが、「8.異動したいと思ったが、異動希望を出すことができなかった」という希望を伝えることができなかった経験のみ統計的な有意差があり、個人選択感を低めていた。
2月に同社が実施した企業調査では、社内公募制度の活用が進むと応募数が増加することにより不採用になるケースも増え、人事責任者からは不採用者のモチベーションへの影響を懸念する声が挙がっていた。しかし、個人の回答からは、希望を伝える機会があれば、結果として異動できなかったとしても必ずしもネガティブには作用しない可能性が示唆された。
個人選択感を低めているのは「個人の事情が考慮されない制度運用」「能力開発・キャリア形成に対する上司の支援不足」「自己理解、学びに関する本人の課題」など
選択の有無による個人選択感の得点差が大きく、個人選択感を低めていたのは、制度運用では、「1.社内の人事異動は会社側の要請で決まり、個人の希望は考慮されない」「2.働く時間や場所を、個人の生活上の事情に応じて柔軟に変更できない」であった。
職場・仕事では、「6.上司が、部下の能力開発・キャリア形成に対して支援的でない」「7.社内に自分がやりたい仕事や部署がない」「8.キャリアについて相談できる人がいない」「9.経験やスキルが足りなくてもチャレンジできるような仕事機会がない」が個人選択感を低めていた。
本人の課題としては、「11.自分がやりたいことがない/分からない」「12.何を学んでいいか分からない」などの自己理解、学びに関する課題が個人選択感を低めていた。仮に人事制度上で個人が選択できる機会を増やしたとしても、能力開発・キャリア形成に対する上司の支援的姿勢や、本人の自己理解、経験を広げる機会や学びによるスキルの向上が伴わないと、自ら選択することは難しいだろう。
「学習指向の評価」「他部署・経営情報の開示」「ライフ・キャリア重視」の3つの組織特徴が個人選択感を高める
「1.学習指向の評価」「2.他部署・経営情報の開示」は、2月に同社が行った企業調査で、個人選択型HRMの導入・活用を促進する組織特徴として確認されたものだが、個人選択感にもプラスに影響していた。従業員の生活の質の向上や長期的・自律的なキャリア形成を重視するという「3.ライフ・キャリア重視」についても、高群ほど個人選択感が高かった。
「1.学習指向の評価」は自己理解に、「2.他部署・経営情報の開示」は仕事理解に関係している。「3.ライフ・キャリア重視」は、キャリア支援や働き方の柔軟化などの施策を下支えしている人事ポリシーである。これらは個人の選択を支援・後押しする組織の特徴であるといえる。
個人選択感が高いほど「組織コミットメント」が高く、個人選択感が低いと「離職意識」が高い
個人選択感が高いほど、組織の理念・目的への共感や会社が気に入っているという情緒的なコミットメントである「1.組織コミットメント」が高かった。個人選択感が低い場合には、会社を辞めたい、転職したいという「2.離職意識」が高くなっていた。個人選択感が高いほど自分の人生と現在の生活に対する満足度である「3.人生・生活満足」が高い結果となった。
「4.変革実行力」「5.現場力」「6.求心力」は、同社の企業調査で個人選択型の配置ポリシーによる影響が確認された組織能力であるが、個人選択感においてもプラスの影響が見られた。個人選択感は、個人の意識、組織能力双方にプラスの影響を及ぼすことが確認された。
個人選択感で組織と個人の関係性を考える
組織の特徴、個人の意識に変数を絞って、個人選択感と各変数との関係を共分散構造分析という手法を用いて確認した。変数から変数への影響を表すパス(矢印)を引いて分析を行い、統計的に有意にならなかったパスを取り除いて作成したモデルが図表7である。左側の個人選択型HRM施策導入数、学習指向の評価、他部署・経営情報の開示、ライフ・キャリア重視のそれぞれが個人選択感にプラスの影響を及ぼし(紫線)、個人選択感から右側の人生・生活満足、組織コミットメントにはプラスの、離職意識にはマイナスの影響を及ぼしている(オレンジ線)。
右側の変数では、人生・生活満足が組織コミットメントを高め、その結果離職意識が低下していることが分かる(緑線)。相対的な影響の大きさを表す係数の値を見ると、ライフ・キャリア重視から個人選択感へ、個人選択感から人生・生活満足へのパスの値が大きい。個人選択感を高めるには、企業が従業員の生活や中長期のキャリアを重視しているかどうかが大きく影響し、それが結果的には従業員の組織コミットメントを高め、離職意識の低下にもつながることが明らかになった。
なお、同調査の詳細データは、リクルートMSのWebサイトで確認できる。
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