従業員のキャリア自律で成果は上がっていますか?
「人生100年時代」が話題となる際に、必ずといってよいほど取り上げられるキーワードが「キャリア自律」です。
キャリア自律とは、環境に合わせて柔軟に自分自身を変化させる一連の行動のプロセスやキャリア選択を指します。キャリア自律にある人は、所属組織でのみ評価され、縦方向に昇進していくのではなく、働く個人が自身のキャリアに関心を持ち、それぞれのキャリアゴールに向けて臨機応変に組織内外の上下・横・斜めを自由に行き来し、柔軟に経験を積んでいきます。
バブル崩壊・リーマンショックなど1990年代以降に生じた経済危機は、ダウンサイジングやフラット化といった組織変革を企業に促し、その結果、企業・組織主導のキャリア形成は限界となり、終身雇用や年功序列制度は機能不全に陥りかけています。
終身雇用の保証や一定水準までの昇進と引き換えに、ある種「会社が全て決める」企業主導のキャリア形成を受け入れて(安住して)きた従業員も、組織を問わず活躍する能力(=エンプロイアビリティ)を求められるようになりました。
また、2020年以降コロナ禍の影響を受け、「自分自身はどのように働きたいのか」「そもそもどのように生きたいのか」を問い直す人が増えてきたように思います。
こうした変化を受け、人材育成や社員のモチベーションおよびエンゲージメントの向上、一人ひとりのキャリア形成、キャリア開発支援に企業も積極的に取り組むようになっています。
しかし、大きな効果を感じている企業は少ないのではないでしょうか。
ミドル・シニアと若手のキャリア自律は違う
ここで論点を1つ出します。それは、一口にキャリア自律といっても、「ミドル・シニア人材へのキャリア自律の問題と若手人材のキャリア自律の問題は明確に違う」という点です。その点を見誤り、押し並べてキャリア自律のサポートの仕組みをする企業が多いように思います。
それぞれを見ていきましょう。
①ミドル・シニア人材のキャリア自律
パーソル総合研究所が企業を対象に行った調査によると、ミドル・シニア人材を活用した企業は「高い専門性の発揮」「取引先や人脈の伝承」「後進の育成」など、経験や専門性を活かした業務において一定の成果が出ていると評価しているそうです。
一方で、「自律的な自身のキャリア構築」や「新たな仕事に対するチャレンジ」では、「組織の期待に十分に応えている」と活躍を評価している企業は2割未満にとどまったといいます。
ミドル・シニア人材が抱えるキャリア自律の問題は、「会社が全て決めてくれるんだ」という甘えと、「社員は言われたことをやればいい」という指示待ちの文化に起因します。ミドル・シニア人材の時代は、創造性よりも合理的・機械的にオペレーションを回すことが組織機能としても求められていました。これが、個々人のキャリア意識の低さや視野の狭さを生んでいるのでしょう。
また、今ほど転職が活性化・一般化していない時代でもあったので、社員を極度に抱え込む傾向にあり、いかに外に目を向けないかに経営者は躍起になっていたのではないでしょうか。結果、長く在籍しているその企業の当たり前がキャリアの当たり前となり、自分自身の汎用スキルや自身の客観評価が欠如してしまったと考えられます。
②若手人材のキャリア自律
若手人材のキャリア自律の問題は、組織内でのさまざまなキャリアやリーダーシップのポテンシャルに気づかせる経験が不足していることです。
多くの企業は、新入社員から3年目までは人材教育に多くのリソースを投じる傾向にあります。しかし、4年目以降から課長(マネジメント)層に昇進するまで、人材戦略とそれに基づいた教育計画が欠如していることが多い印象です。そのため、若手人材はキャリア創造やリーダー経験の機会を得られず、企業はリーダー創出の機会を逃しています。
人材教育投資の溝ともいえる「機会の断絶」が、若手人材のニーズにも企業とのニーズにもマッチしない現象を生んでしまうわけです。その結果、以前の記事で説明したとおり、内発的モチベーションが非常に高く、精神的に自律している若手人材はこの期間に「自分はこんなにも覚悟があるのに、会社は機会をつくってくれない」と落胆し、「この会社にいてもキャリアの先が見えない」と言って辞めていきます。