「Track」を活用した研修DXの3つのステップ
では、NTTデータ ユニバーシティの具体的な取り組みを見ていこう。同社では、3つのステップで研修のDX化を図ってきた。
STEP1:オンライン化による自律自走型学習支援と研修運営体制の構築
まずは、PDF・Word形式で管理されていた動画(93本)・教材(72本)・演習問題(401問)をすべて「Track」内の専用LMS(学習管理システム)に集約するところから着手した。紙の資材は保管コストがかかるうえ、更新などの品質管理をすることが難しい。さらにセキュリティの観点からも漏洩リスクにさらされてしまう懸念があったからだ。
次に、オンライン化したことによって受講者のモチベーションが低下してしまうのを防ぐために、同社ではオンライン上のコミュニティで人の輪をつくったり、趣味が同じ人同士が会話できるプラットフォームを準備したりして、アウトプットできる環境をそろえたという。
「最近ではオンラインでのコミュニケーションに慣れたようで、『疎外感がある』というアラートは減りました。むしろコミュニティが盛り上がりすぎて、どう整理しようかという方向にシフトしています」(市村氏)
また、オンライン化による大きなメリットは、質問が増える教材や初心者の進捗が思わしくない部分を特定できるようになり、教材改訂のスキームを構築できた点だという。Trackの中で「この人はここでつまずいているな」「ここで止まっている人が多いということは、ここが分かりにくいのだな」という箇所が分かり、すぐにアップデートできる。印刷済みの教材を改訂するのは時間もコストもかかって大変だが、改善箇所を見つけたら即座に改訂できるというのは、オンラインならではの利点だ。
さらに、オンライン化により、オペレーションや講師に関わるコストの大幅削減につながったと市村氏は語る。オフラインの研修で3つのクラスをつくろうと思うと、3人の講師を立てるか、1人の講師が3回に分けて講義をする必要があった。一方、オンライン研修ではクラスをいくらつくっても講師の人数を増やす必要はない。習熟度によって物理的な部屋を分ける必要もないため、時間とコストの削減につながるというわけだ。
STEP2:スキルファーストな研修設計によるスキル差に対応した習熟度の向上
NTTデータユニバーシティでは、入社する人材のスキル差に対応するために、研修の前と後でアセスメントを行っている。以前は自己申告によってスキルを把握するしかなかったというが、Trackでは穴埋め式の演習やプログラミングの実装問題によるスキルアセスメントも行えるため、これらのデータを根拠に正確な評価ができるようになったという。
現在は、アンケートとスキルアセスメントの結果に応じて、初級・上級などのクラス分けを実施している。なぜ、スキルアセスメントだけでなくアンケートも行っているのかというと、研修ではJavaを使用しているが、それ以外の言語の経験者で、スキル的にも上級レベルの受講者をすくい上げるためだそうだ。
アセスメントでスキルレベルを可視化したうえでクラス分けを行うのは、初心者のフォローを手厚くできると同時に、上級者が不要な講義を受けなくて済むというメリットがあるからだ。「受講者の理解度が高いので、ここは飛ばしてもよいだろう」と講師が判断しやすくなったことで、上級者が講義に飽きずに済むだけでなく、講義を進めやすくなったと講師にも好評だという。
また、研修の終了後には個々人のカルテを作成。研修前後の効果はもちろん、研修中に行ったカリキュラムごとの修了判定テストの結果も含めて、1人ひとりの研修成果を可視化できる。研修中の様子がブラックボックス化せずに提示できるため、顧客からの信頼獲得につながっているという。
STEP3:データ活用とフォローアップ
次図は、Trackのダッシュボード画面だ。右下の「経過時間」では、横軸が経過時間を縦軸が点数を示している。つまり、赤枠が演習に時間をかけておらず点数も低い「危険ゾーン」だと一目で分かる。
また、NTTデータ ユニバーシティでは、個人のスコアを定点観測することで、どこまで何を習得できているのかも時系列で可視化している。たとえば、次図でオレンジ色の棒で示されているのが平均点未満のカリキュラムだ。左に行けば行くほどカリキュラムが進んでいる。真ん中のオレンジ色が増えてきたタイミングで声をかけ、個別にフォローしたことで、その後は青色の棒ばかりになっている好例である。
「人数が増えると人力だけでフォローしていくのは不可能です。客観的な情報によってフォローが必要な人を可視化し、すぐに対処できるようにしています」(市村氏)
各カリキュラムの終了後には修了判定テストを行っている。テスト結果やアンケート結果を回収して、次のカリキュラムの講師に渡すことで、スムーズな引き継ぎができているという。
このようにオンラインならではの利点を活かしながら、個々人のスキルの習得度合いやカリキュラムの進捗などを随時把握して受講者をフォローしている同社。過去3年間のデータを比較してみると、「初心者の合格率が急激に上昇する」という結果が得られているそうだ。
コロナ禍が収束に向かう中で、研修をオフラインに戻す企業も出てきているが、オンライン化によるさまざまなメリットを享受しているNTTデータ ユニバーシティでは、研修全体のうち約80%がオンライン研修のままだという。