クローズアップされる「心理的安全性」
心理的安全性(psychological safety)は、エイミー・エドモンドソン教授(ハーバード・ビジネススクール)によって提起された心理学的な概念(1999年)ですが、広く知られるようになったきっかけは、グーグルのリサーチ結果発表(プロジェクト・アリストテレス 2015年)といわれています。
心理的安全性が高いチームは、離職率が低く、チーム内の多様なアイデアの活用がうまく、マネージャーから評価される機会が約2倍であったといい、収益性も高いということでした。また、他の要因よりも明らかに重要であったのがこの心理的安全性であったと記しています[1]。
注
[1]: ちなみに他の要因として、相互信頼、構造と明確さ、仕事の意味、インパクトが挙げられている。
これがグーグルという企業だけの現象なのかどうかの論点はあるとしても、その内容はIT企業はもちろんのこと、一般の企業にまで広く認識され、よりよい組織のあり方を模索するうえで頻繁に論じられるようになりました。背景には、多くの企業が変化の激しいビジネス環境にさらされ、新しい価値創造の必要性とそれに伴う不確実性への対応が大きな課題になってきている昨今の状況があるのだろうと想像します。
「心理的に安全だ」とはどういうことか
心理的安全性に関して論じる際に気をつけなければいけないことは、それはたんに「仲がよい」状態とは異なるものだということです。
仲が良いことは良いことですが、一方で甘えや無批判の許容が含まれる場合もあります。
エドモンドソン教授自身は心理的安全性を「チームメンバーが、自分の考えや感情をオープンに表現し、リスクを冒しても罰せられたり、拒絶されたりしないという信念」と定義しています。グーグルではそれを自社のプロジェクトの目的に適した形で解釈し、落とし込んだものとしてリポートで定義付けています。
チームが適切な方向に進んでいくためには、何が適切かをよく議論して選び取っていかなければいけません。正しい方向が大まかに決まっていて、それが長期間安定的な環境ということでなければ、忌憚のない議論は必ず必要になってきます。このコミュニケーションのインフラになるものが心理的安全性であり、思ったことを率直に議論してよい(それによってペナルティが発生せず、むしろ推奨される)場を実現する関係性だ、というイメージで大まかに理解していただいて結構です。
逆に心理的安全性がない場合としては、思ったことを言えない(有形無形のペナルティが生じる)、言うことに必要以上にリスクが伴う(冷笑などネガティブな反応が予期される)、言える人と言えない人があらかじめ決まっている、といった環境が挙げられるでしょう。