景気回復と人材不足で競争が激化する新卒採用市場
——東郷さんは新卒採用領域を10年以上見てこられたそうですが、2024年卒(以下、24卒)の新卒採用における企業活動には、どのような傾向がありましたか。
中途採用や非正規採用とは異なり、もともと新卒採用はあまり景気の影響を受けないとされています。しかし、ここ2~3年は、コロナ禍というあまりにも不確実なことが起きてしまったことで、採用を控えるようなケースも見られました。そのような雰囲気から一転して、コロナ禍が明けたことで、急激に採用ニーズが高まったのが24卒です。
加えて、今後より深刻になるであろう人材不足に備えて、企業側の採用競争はより激しくなったと感じています。
また、近年は学生が複数の内定企業を保有したまま就職活動を継続するケースも散見されます。これにより、企業は内定を出した学生に、最後の1社として選んでもらわなければならなくなりました。内定を出した後も安心できず、企業にとっては、かなり厳しい状況になっているのではないでしょうか。
「安心して長く働きたい」から、学生はこだわる
——では、24卒の学生に見られた変化を教えてください。
インターンシップ期間中の活動量は増加している一方で、3月1日以降のエントリー社数と企業セミナー(Web)への参加は減少傾向にありました。これは、インターンシップ期間で出会った志望企業群の選考を受けていくため、新しくエントリーする企業は少なくなるということだと考えています。
また、価値観に関しては、福利厚生を重視する傾向が年々増しています。学生は、「少しでも安心できる人生をつかみ取るために、少しでも安心して長く働き続けられるよう、制度の整った企業に入りたい」と考えているようです。以前から、女子学生は福利厚生を重視している傾向がありましたが、昨今は男子学生の共働き志向も高まっており、男女ともに福利厚生を重視しているのが特徴です。
勤務地に対する考え方も、背景は同じですね。共働きを前提に考えると、お互い配属先が限定されているほうが安心だと考えるのは、理にかなっています。また、リモートワークで働ける企業もある中で、働く環境を自分で選びたいという意識が強くなっているというのは自然ではないでしょうか。
職種に関しても、「自分のキャリアにとってプラスになるのか」「この仕事をすれば自分の働き手としての市場価値を上げられるのか」という発想が強くなっています。転職を見据えてキャリア戦略を立てなければ、人生100年時代を生き残れないという恐怖心が強いのです。
一方で、4割以上の学生は新卒で入社する会社で「10年以上働きたい」と考えていることが分かります。結果的に3割は3年で辞めてしまうのですが、入社する時点で「3年で辞めてやる!」と考えている人は、ごくわずかしかいません。不確実な時代に、長く働き続けたいと思うからこそ、福利厚生や配属先に対するこだわりが強くなっている、といえるのではないでしょうか。
こうした24卒で見られた福利厚生・配属先へのこだわりは、2025年卒(以下、25卒)ではより強く出てくるだろうと推測しています。24卒の就活時期よりも、経済活動が活発になっているのは明らかですし、人材不足感も強まっていることを考えると、企業の採用ニーズはさらに高まるはずです。