ワークショップで得た気づきがリスキリングの動機に
DXスキルのリスキリングの動機付けにデザイン思考のワークショップが有効であることは分かった。では、企業はどのようにワークショップを進めていけばよいのだろうか。
森氏は、ギブリーが提供するワークショップを例に具体的な進め方を紹介した。
ギブリーでは、デザイン思考を用いたワークショップを年間10社ほど手がけている。ギブリーのワークショップは3時間×5日間もしくは7時間×2日間で行うもので、多くの時間を必要とするため、社員全員が参加するのは非常にハードルが高い。
そこで、まずはギブリーが提供する「Track」のデジタルスキル標準と国家資格試験に準拠した総合試験「デジタルスキルパスポート試験」を受験してもらい、参加者のスキルレベルを正確に把握して、ワークショップの参加者を絞り込むのだという。
ワークショップでは、まず自社の役員や顧客といったステークホルダーを対象にペルソナ化を行い、ペルソナが抱える悩みを書き出していく。そして、それらの悩みに対して、ソリューションを考えていくのだが、その際に「スマートフォン/PCで利用するWebサービスであること」「自社のこれまでの資産を活かして差別化を行うこと」といった制約を設けておくことで、最後のアウトプットに必ずDXの要素が入るようにする。
ビジネス側の人とテクノロジー側の人が、それぞれの架け橋となるテーマのワークショップに取り組むことで、デザイン思考を学び、チームビルディングを行いながら、これまで自分になかった視点や自身の価値を深掘りする。これが何よりもリスキリングの動機形成に効くのだと森氏は強調した。
「ワークショップを通じて、ビジネス側の人は『テクノロジーを学ばないと新しい価値を生み出せないのだな』と気づき、テクノロジー側の人は『自分にはビジネス・マーケットの視点が欠けていたな』と気づく。こうした気づきが動機となり、人材がDX人材へと進化するためのリスキリングへとつながります」(森氏)
ワークショップで生まれる横のつながりと副次的効果
また、このワークショップの効果は、リスキリングの動機形成だけではない。他の部門の人たちと互いに称賛し合いながらアイデアを発散することで、横同士のつながりが生まれる。すると、これまで自部署だけでは解決できなかった問題が、部署間の連携により簡単に解決してしまうというような副次的な効果も期待できる。
さらに、チームで導き出した業務改善策や新商品開発について、経営陣にプレゼンテーションを行う企業も多いという。経営陣にとっては、従業員が考えていることを知る良い機会となり、「そのままタスクフォースをつくって実現に向けてがんばってください」とトップダウンでDXを推進する足がかりになる。「自分たちが出したアイデアだから、そのために学び直さなくては」というさらなるリスキリングの動機にもつながっていく。
「このワークショップは楽しいので、どの企業でも非常に満足度が高いです。とくに若手社員はスキルアップの重要性を実感しますし、テーマを自社にすることで、DXを通じた業務改善や自社のビジネスに対する関心の高まりも見られます」(森氏)
このように、デザイン思考をもとにしたワークショップは、これまでテクニカル面かビジネス面の片方にしか知見がなく、学び直しに対するモチベーションが低かった人材にリスキリングの重要性を気づかせることができる。DX人材へと進化させるうえでは非常に有益な手段だと語り、森氏はセッションを締めくくった。