野沢 俊基(のざわ としき)氏
株式会社SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー
大学卒業後、ソフトウェア企業にて管理会計システムの導入コンサルタントとしてシステム設計・導入による大手企業の業務改善に従事。2020年にSmartHRへ入社し、大手企業のカスタマーサクセスを経験。その後プロダクトマーケーティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の「スキル管理」「学習管理」の企画・開発を担当。
人材不足のいま、人材の能力向上が重要に
「労働にまつわる社会問題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」をミッションとして、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を開発・提供するSmartHR。同社でプロダクトマーケティングマネージャーを務める野沢氏は、「実効性のある人材育成」に関する4つのテーマを掲げ、それぞれ解説した。
最初のテーマは「人材育成の重要性」だ。
野沢氏はまず、日本の労働力は年々減少傾向にあり、2030年には644万人もの人手不足が予測されていると述べた。特に人手不足が深刻な業種が製造業や卸売り・小売り、医療・福祉、サービスであり、すでに半数の企業が正社員の不足を感じているという。一方で、人材の流動化や求人倍率の上昇も顕著になっており、「転職がより簡単になったものの、採用が難化しているのが昨今の状況です」と野沢氏は指摘した。
こうした人手不足の環境は、企業にとってどういったリスクがあるのだろうか。野沢氏が強調したのは、欠員などの突発的な変化が大きな問題となり得ることだ。「たとえば、欠員に対応できる人材がいないとボトルネックとなってしまい、事業の停滞を引き起こしてしまう可能性があります」と語る。
「では、人手が足りない中で企業が勝ち抜いていくためにはどうしたらよいのでしょうか。それには、いまいる人材の能力を向上する仕組みをつくり上げていかなければいけません。つまり、効果的な人材育成が必要なのです」(野沢氏)
野沢氏は人材育成を、「1人ひとりを活かし、個人・組織の成長を促していく仕組みであり、個々の能力を発掘・最大化すること」と定義付ける。人材育成ができる環境、つまり個人の能力を向上させられる環境があることで、従業員の仕事に対するモチベーションやエンゲージメントも向上させられる。また企業にとっても、1人ひとりの生産性が上がることで、組織が活性化するメリットがあると解説した。
「スキルの可視化」が人員配置に欠かせない理由
2つ目のテーマは、「人員配置による効果的な人材育成」だ。
野沢氏は、効果的な人材育成のためにはまず、現在の従業員のスキルを把握する必要があると述べた。そして、役割や役職に求めるスキルとのギャップを明らかにし、そのギャップを埋める人員配置を行うことが重要なのだという。
ここで気になるのは、スキルの可視化や人員配置がなぜ効果的な人材育成の施策となるのかという点だ。野沢氏はその疑問に答えるために、人員配置の効果に触れた。
「調査したところ、約70%の企業が人員配置を育成の手段として行っています。また、人員配置の効果を聞いたアンケートでは、『部門の成果・実績が向上している』『メンバーの能力・スキルが高まっている』『人材育成が上手くいっている』などの回答が上位を占めていました。この結果により、人員配置は育成に効果があることが分かります」(野沢氏)
さらに、育成のための人員配置の成果が出ている企業と出ていない企業を比較すると明確な違いがあったという。人員配置の成果が出ている企業の半数以上が「従業員のデータを活用できている」と回答。一方で、成果が出ていない企業はデータ活用の割合がわずか16%にとどまるというのだ。「つまり、従業員データの活用が、人員配置による育成の鍵となるのです」と力説した。
ならば、どんなデータを参考にしたらよいのだろうか。調査の結果で最も多かったのは、「能力・スキル」で80%を占めた。野沢氏によると、「スキルのデータとは、ある業務を遂行できる力と客観的な裏付けとなる保有資格や研修の受講歴、経歴などの情報」とのことだ。
「これらのスキル情報を可視化することで、1つ目のテーマで述べた『現状と求める姿とのギャップ』を把握できるようになります。ギャップを把握することで、従業員の強みや弱みを把握して成長機会を提供できますし、組織は必要なポジションに必要な人材を投与することで事業を成長させられます。それだけに、まずは従業員にどのようなスキルがあるのかを可視化することが、成長を促す人員配置の実現につながると考えています」(野沢氏)
育成効果は“1割”とされる「研修」の本当の価値とは
続く3つ目のテーマとして取り上げられたのが、「研修による育成効果の最大化」だ。
人が成長する要素を説いたロミンガーの法則によると、研修は人の成長に1割しか影響しないという。となると、研修による育成の効果に誰もが疑問を持ってしまうだろう。野沢氏は、「たしかに、研修を行うだけでは育成の効果は期待できません。研修は、学んだことを業務に活かすことで初めて効果を発揮するのです」と見解を示した。
実は、ロミンガーの法則で成長要素の7割とされる経験だけでは、人材育成の効果が見込めないケースがあるのだという。たとえば、必要な知識がなければ業務がうまく進められなかったり、経験したことがやりっぱなしになったり、より良い業務のやり方が分からなくなったりする。それらを解決する術となるのが、研修なのだと野沢氏は語った。
「研修では、業務に必要な知識を習得でき、体系的に学ぶことで知識を定着させられます。業務理解を深める知識のインプットが研修、学びを活かすためにアウトプットする場が業務という位置付けなのです。つまり、業務経験を最大化するために研修があるのです」(野沢氏)
野沢氏は、研修を行う際にもスキルの可視化が重要だと述べる。従業員のスキルを可視化することで、誰が何を受講すべきかが明確になり、的確な研修を行えるからだ。異動や昇格・昇進先で求められるスキルをしっかりと定義し、その差分を研修で埋めることを意識したい。
SmartHRの集まる・蓄まる・活用できる仕組みが「スキルの可視化」を叶える
最後のテーマは、「SmartHRのタレントマネジメントで実現できること」だ。これまでに解説した効果的な人材育成について、SmartHRは多くの場面で支援できるという。
「タレントマネジメントとは、人材の能力を最大限に引き出すために、採用・定着・育成のサイクルを回す人事戦略を実現する仕組みです。SmartHRは必要なデータが自然と集まる仕組みとなっており、人事データをいつでも活用できる状態をつくり出せるのが特徴です」(野沢氏)
SmartHRでは、従業員のスキルを効率的にデータ管理するだけでなく、可視化の機能も備えている。つまり、スキルに関する情報を従業員から収集し、一元管理できるのだ。「育成課題の把握から育成施策の実施、育成効果の測定・把握までをSmartHR内で完結できるのです」と野沢氏は強調した。
加えて、野沢氏は学習管理機能を紹介。これは、従業員の研修や学習状況を管理する負荷を軽減してくれる機能だ。
「本機能では、受講者毎のステータスを一覧で可視化して管理の手間を削減できます。また、タレントマネジメント機能と受講履歴情報が自動連携されるため、従業員の学習状況や得た知識をタレントマネジメントに簡単に活用できるのです」(野沢氏)
他にも、情報が自然とたまる仕組みであるために経営陣がタイムリーに人事データを見れるキャリア台帳の機能や、効果的な人員配置・育成を可能とする配置のシミュレーション機能も備わっているという。
「SmartHRでは、情報を一目で確認できるので、人員不足やジョブローテーションの配置も効率化できます。SmartHRを使えば、突発的な欠員が発生しても、それを補うための人員配置をスピーディに行えるのです」(野沢氏)
最後に野沢氏は、「SmartHRはスキル・研修・学習履歴など、タレントマネジメントに必要な人事データを労務データと合わせて集約できます。また、最新・正確なデータをもとに配置や昇進も検討できます。それらを通じて、効果的な人員育成を実現可能とするのがSmartHRのサービスなのです」と、SmartHRが効果的な人材育成を実現できる理由を総括して講演を締めくくった。