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人事労務事件簿 | #52

同意なしの契約更新上限規定の変更による雇止めは認められないと判断(徳島地裁 令和3年10月25日)

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2. 裁判所の判断

(1)労契法19条2号該当事由の有無について

①基本的な考え方

 労契法19条2号所定の、契約期間満了時点における契約更新を期待する合理的な理由の有無を判断するに当たっては、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用契約の更新に対する期待を持たせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮することが相当である。

②雇用契約更新への期待

 Xは、Y社との間で、平成18年4月1日以降、毎年4月ごろ、それぞれ有期労働契約を更新しており、更新の回数および雇用の通算期間は、本件雇止めの時点までのみならず、同25年3月までの時点でも、相当多数回かつ長期間に及んでいる。

 また、その更新に当たっては、当初労働契約が締結された同18年度から同24年度までの間は、雇入通知書上、雇用期間満了時の業務量・労働者の勤務成績、態度・労働者の能力・学園の経営状況・従事している業務の進捗状況などを勘案しつつ、更新する場合もあるとの記載がある。

 現に、Xは、事務長から5~10分程度、簡単な更新の意思確認を受け、その希望次第で更新することができていたのであって、その更新手続自体が、Xに雇用契約の更新に対する期待を持たせるようなものであったといえる。

 Xが一貫して従事してきた図書室業務が臨時的な業務ではなく、常用性もあること、本件雇止めに至るまでの間、他の時間雇用職員が雇止めされたことがない。

 こうしたことを併せて考慮すると、Xには、雇入通知書に更新回数については本件基準の定めるところによる旨の記載が追加される前である同25年3月の時点ですでに、労契法19条2号所定の雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったものと認めるのが相当である。

③労働条件の不利益変更は明らか

 Y社理事会は、同25年3月、本件上限規定を定める本件決定を行い、同年度以降の雇入通知書には、更新回数については本件基準の定めるところによる旨の記載が追加され、本件上限規定が適用される旨示されている。

 同29年度の雇入通知書には不更新条項が付されるに至っているなど、Xにおいて、同30年4月以降も雇用契約が更新されるものと期待することについて、合理的な理由を失わせるような事情も認められる。

 しかし、有期労働契約における労働者、特に、本件上限規定が定められた時点で、相当回数にわたって、契約が更新されてきたXにとって、今後の更新可能回数を制限することが労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。

 一般に、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、更新可能回数を制限する本件上限規定や不更新条項といった不利益な変更は、たとえ、これらが雇入通知書に記載され、これに対して労働者が具体的に異議を述べていなかったとしても、その事実のみで、当該労働者が承諾したとみるべきではない。

 当該労働者の自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足り、そのような事情を踏まえて、雇用契約が更新されることについての合理的な理由が消滅したかを検討すべきである。

④Y社の対応を認めず

 本件においては、Y社は、Xに対して、本件上限規定が定められたことを告げるにとどまり、相当回数にわたって契約更新がされてきた労働者の取り扱いに特に言及することもなかった。

 Xから本件上限規定に係る承諾書の提出を拒絶されたにもかかわらず、本件決定のわずか数週間後に、本件基準を一方的に雇入通知書に追加して記載したにすぎない。

 しかも、雇入通知書には、「雇用の更新は、労働者の勤務成績・態度・能力および業務上の必要性により判断する」などと、あたかも更新される余地があると読むことができる記載もされている。

 また、Y社は、平成29年4月の本件労働契約締結の際にも、Xに対して、単に不更新条項が付された雇入通知書を交付して、更新がない旨を伝えるにとどまっており、本件雇止めをする必要があることについて合理的な説明もしていない。

 これらの事情を考慮すると、本件決定や雇入通知書の記載によってもなお、Xが自由な意思に基づいて、これらを承諾したうえで同25年以降の契約更新に及んだと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるとはいえない。

 この点からも、雇用契約が更新されることについての合理的な期待が消滅するものとはいえない。

⑤F教授の反対運動等の事情も考慮

 さらに、F教授を中心とするY社職員の一部の反対運動について、F教授から情報提供を受けていた。

 同年12月の時点で、本件上限規定に例外が定められ、時間雇用職員の一部について通算上限期間5年を超えて雇用されることが可能となった。

 Xは、本件雇止め前の同30年1月ごろに、労働組合を通じて、Y社に対して団体交渉を行ったことなどの事情もあった。

 これらの事情も、本件雇止めに至るまでの間、契約更新がされると期待することについて合理的な理由があると評価すべき根拠になるといえる。

 以上によれば、本件労働契約の満了の時点において、Xが労契法19条2号所定の契約更新がされるものと期待することについて、合理的な理由があると認めることができる。

(2)本件雇止めの客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性の有無について

 本件雇止めは、本件上限規定を根拠にされたものであるところ、本件上限規定は、労契法の改正(平成25年4月1日施行)への対応として定められたものであると認められる。

 本件上限規定は、少なくとも、本件決定がされた平成25年当時、Y社との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきたXとの関係では、有期労働契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものである。

 労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず、このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに、客観的に合理的な理由があるとは認めがたく、社会通念上の相当性を欠くものと認められる。

 以上から、本件雇止めには、労契法19条2号に該当する事由があり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。

 そのため、Y社は、Xとの間の本件労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で、当該申し込みを承諾したものとみなされる。

 すると、Xは、Y社との間で、平成25年4月1日から2年以上の有期労働契約を締結し、契約期間を通算した期間が5年を超えたことになる。

 Xが、同年10月2日、Y社に対して、期間の定めのない労働契約の締結の申し込みをしたことにより、Y社がこれを承諾したものとみなされる。

 X・Y社間の労働契約は、同31年4月以降、本件労働契約のうち契約期間を除いた労働条件と同一の労働条件で、期間の定めのない労働契約となったものと認められる。

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3. 要点解説

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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