お話しいただいた方
実践キャンプ参加者
田中さん
(行政機関・公務部門)
草苅さん
(通信業界・人事本部)
大久保さん
(製薬業界・人事システム部門)
実践キャンプ主催者
鹿内さん
(株式会社シンギュレイト 代表取締役)
ピープルアナリティクス実践キャンプのプログラム
Pythonの基礎とケースメソッドの導入
——最初の1ヵ月は、主にPythonに特化したオンライン学習ツール「PyQ(パイキュー)」からスタートしたそうですね。
大久保さん はい。私にとってPythonでのコーディングは初めての経験でした。特に統計分析の部分では、どのようなコードを書けばどんな結果が得られるのか、最初は全体像がつかめませんでした。ですが、実際にデータを扱っていくうちに理解が進み、最後には楽しみながら取り組めるようになりましたね。
田中さん 私の場合、Excelのプログラミング言語VBAを業務で少し触った程度でしたので、プログラミング言語を扱うこと自体に苦労しました。ただ、専門知識を持った信頼できる方々からフィードバックがもらえる環境があったので、それが心強かったです。
草苅さん 私は以前からRというプログラミング言語を使って自社でピープルアナリティクスを行っていました。Pythonは経験が少なかったので、今回、改めて体系的に学べたのは良かったです。
——学習の中でChatGPTも活用されたとか。
田中さん はい。鹿内さんからChatGPTのレクチャーも受けまして。指示を整理して、プロンプトを正確に入力することで精度が上がるということを学びました。また、ChatGPTで生成したコードを別のAIにもチェックしてもらい、セカンドオピニオンをもらっていました。
鹿内さん プログラミング学習は大きく変わってきています。従来の文法から順番に覚えていく方法ではなく、いまはChatGPTを使って必要なコードを生成し、その意味を理解しながら応用していく。これは現役のエンジニアも採用している方法です。実践的なコードを書く力を重視しているんです。
——1ヵ月目からケースメソッドを導入されたのは、今回(第2回)の実践キャンプからの新しい試みだと伺いました。
鹿内さん はい。ピープルアナリティクスの本質は、データをもとに人事施策を設計することです。プログラミングを学んでいる段階から、「このデータからどんなアクションが考えられるか」という議論を始めることで、学習のモチベーションを高められると考えました。また、チームビルディングも重視し、議論を通じて連携を深める仕組みを取り入れています。
——1ヵ月目のケースメソッドでは具体的にどのようなことをされたのですか。
草苅さん 実際の顧客データを匿名化したサンプルを使って、グラフや図が示す内容を分析し、キーメッセージを考えました。チームで意見を出し合い、最後に鹿内さんからアドバイスをもらうという流れでした。
大久保さん このケースメソッドから2つの重要な学びがありました。1つは数値を使った説明の重要性です。これまで私はテキストベースでの説明に偏りがちでしたが、数字を効果的に使う大切さを学びました。2つ目は「誰に対して説明するのか」「どこに対してアクションを起こすのか」という視点の重要性です。目的を明確にして分析することで議論の質が各段に上がることを実感しました。
——「定例会」では技術的な議論だけでなく、人と組織についての本質的な議論も行われたそうですね。
田中さん 特に印象に残っているのは「信頼」についての議論です。山岸俊男さんの理論をもとに、信頼と安心の違いについてディスカッションしました[1]。ちょうどそのころ、大手自動車メーカーによる品質データ改ざん問題が取り沙汰されていて、「信頼・安心が組織内でどのように作用していたのか」を具体的な事例として考察できたのがおもしろかったですね。シンギュレイトの心理サーベイで測定する「信頼」の指標についても、より深く理解できるようになりました。
注
[1]: 山岸俊男氏には著書『信頼の構造: こころと社会の進化ゲーム』『安心社会から信頼社会へ: 日本型システムの行方』などがある。
鹿内さん この議論は、一見するとデータ分析から離れているように見えますが、実は「人と組織の科学」を学ぶ重要な機会なんです。私たちのサーベイでも「信頼」は重要な指標として扱っていますが、それを意味ある施策に結び付けるには、人間や組織についての本質的な理解が不可欠。ピープルアナリティクスにはデータ分析だけでなく、人間の科学、組織の科学という観点からの理解も欠かせませんね。
——プログラミングの基礎学習に加え、実践的なデータ分析とチームでの学び合いを組み合わせた1ヵ月で、その後本格的な分析実習へと進まれたわけですね。