KPIは、物事を端的に判断するための「ものさし」
ビジネスに携わっている人なら「KPI」という言葉を耳にしたことがあると思います。ただ、このKPIの本質を正しく理解していない場面も多く見受けられます。単なる数字や指標を何でもかんでもKPIと呼んでしまい、「KPIだらけ」で混乱してしまうケースも。KPIには「重要業績評価指標」という名前が付いているとおり、すべての指標がKPIというわけではありません。
ここで注目したいのが「重要」という言葉。なぜ重要かというと、その指標を見れば「物事の状況を端的に判断できる」から重要なのです。たとえば、分かりやすい例として「カラダ」に関するKPIを考えてみましょう。
健康診断ではいろいろな数値が示されますが、日常的によく見る(かつ気になる)のが「体重」です。スタイル改善や健康維持を目的にダイエットをするときは、体重が増減することで現状の進捗が分かりやすく、食事量や運動量のコントロールにすぐつなげられます。つまり、「端的に状況を判断しやすい」ため、体重は優秀なKPIといえます。
もちろん、ダイエットでは体脂肪率やウエストサイズなど、ほかにも指標はあります。しかし、体重は、「増えたら食事を抑える」「減ったら運動の成果が出ている」などが分かりやすい指標で、「物事を端的に判断できる」ため、優秀なKPIです。
人事領域こそKPIが必要な理由
人事領域では、採用、教育、評価など多様な施策・制度が関わります。そんな中で、「何となくの感覚で動いてしまう」「成果が見えにくい」といった漠然とした課題感を多くの人が抱えているのではないでしょうか。
そこで、人事が今まさに求められているのがKPIの活用です。KPIを「単なる数値目標」ではなく、会社や組織が目指す方向性や課題を端的に示す「ものさし」として扱うことで、施策の成果を数字で確認できるようになります。さらに、評価や制度の改善策を立案する際にも、より正確かつ納得感のある議論を展開しやすくなります。
しかし、KPIを設定して「成果を明確に捉えること」のメリットはそれだけではありません。
①組織の透明性や公平性を担保できる
KPIという「共通のものさし」があることで、成果や状況の良し悪しを客観的に判断できます。もしこのものさしがなければ、主観という、人によって基準がばらばらで感覚的なものに委ねることになるため、公平性や透明性が損なわれる恐れがあります。
たとえば「ハイパフォーマーは誰か」という問題を例に挙げます。主観のみで評価する場合、人事と現場の組織長で候補が異なったり、同じ人を挙げていても「なぜ彼・彼女なのか」という理由が食い違う可能性が高いです。ここで、客観的に比較できる指標(KPI)があれば、基準がはっきりし、認識のずれを減らすことができます。
②意思決定をスピーディーに行える
同じような課題が繰り返し発生する場合、あらかじめKPIを設計しておけば数値に基づく意思決定が可能になります。分析には、思考するための時間とエネルギーが必要ですが、KPIという「物事を端的に判断する」仕組みをつくっておくと、ゼロベースで考え直す手間を省くことができます。
そして「分析を行うなら、必ずアクションにつなげる」ことが大切なため、判断に時間やエネルギーをかけず、解決策の検討や実施に集中できるようになるのは大きなメリットです。
③経営や従業員とのコミュニケーションが円滑になる
人事の仕事で悩ましいのが、新しい施策や制度を導入するときの経営や従業員への説明です。いくら良い施策でも、経営からの理解が得られず、あるいは従業員の納得を得られず、計画が頓挫してしまうこともあります。
そこで、「なぜこの施策が必要なのか」を語る際に、「どのようなKPIを設定し、どのような数値を目指すのか」を示すと説得力が増します。感覚的な表現だけでなく、複雑なロジックを長々と説明するでもなく、シンプルな指標を提示できるため、経営や従業員とのコミュニケーションがスムーズになります。