なぜ、最近の若手は突然辞めるのか?
新任マネジャーの福島(仮名)が、入社3年目の渡辺(仮名)と面談をしていたときのこと。
渡辺は真剣な表情で、「どうすれば目標を達成できますか。私に足りないものは何ですか」と聞いてくる。自らの成長に貪欲な渡辺を見て、福島はうれしくなると同時に、あらためて上司としての責任を感じた。「渡辺の成長を支援したい」という一心で、できる限りのアドバイスをした。「今日はありがとうございました。いただいたアドバイスを活かして、絶対に今期の目標を達成します!」と言い、渡辺は意気揚々と自席に戻っていった。
この面談からわずか2週間後、福島は渡辺の口から信じられない言葉を聞くことになる。
「次の会社が決まったので、来月末で退職します」
青天の霹靂とはこのことである。2週間前の、あの意気込みはどこへ行ったんだ……。今期の目標はどうなったんだ……。
このように、昨今は突然、会社を去る若手が少なくありません。「Z世代」と呼ばれる最近の若手社員の離職を防ぐために、人事は何をすればよいのでしょうか。
働く人は「2つの人格」を持っている
アメリカの経営学者であるチェスター・バーナードは、組織における人間には「個人人格」と「組織人格」の2つの人格があると主張しています。
個人人格とは、自由な意志や動機に基づいて「何をするのか」を決めて行動している人格です。私たちには職業選択の自由があり、どこで、どのような仕事をするかを自由に決められますが、これは個人人格としての自分が決めています。今の会社で働くことを決めたのは個人人格ですし、上司の指示に従うことを決めているのも個人人格です。
これに対し、組織人格とは、組織の指示によってある役割を担うことを求められて行動している人格です。どんな組織にも目的があり、組織に属する人はその目的に向かって自分の役割を全うすることが求められます。会いたくないクライアントに会って頭を下げているのは組織人格ですし、嫌いな上司の指示を忠実に遂行しているのも組織人格です。

働く人には、この2つの人格が同居しているというのがバーナードの主張です。ここで、冒頭の「突然の退職劇」を振り返ってみると、面談における渡辺さんの発言は、組織人格としての発言だったことが分かります。渡辺さんは、「面談では前向きな姿勢を見せておいたほうがよいだろう」と考え、組織人格として振る舞っていたのです。