沈黙する若手たち——「質問は相手の時間を奪う行為」
リモートワークだけでなく、出社の場面が多くなった後の産業医面談でも、「ちょっとしたことを相談できない」という若手社員は後を絶たない。
たとえばこんな声がある。
- 「チャットで聞いたら迷惑だと思われそう」
- 「会議で話している内容が理解できなかったけれど、誰にも聞けなかった」
- 「同じことを何度も聞くのは申し訳なくて……」
そして、この声の裏側で「どのレベルで質問してよいのかも分からない」「自分に期待されているレベルがどこなのか」「上司や先輩同士は気軽に話しているが、自分はその輪に入ってよいのか分からない」という本音を聞くことも多い。昔からの仲間である部門の人たちはリモートワークになっても、気軽にコミュニケーションをしているのである。そのときに感じる若手社員の疎外感は強い。
産業医面談でしか話していないだろうと感じることもある。それは、世代間ギャップや、会社への帰属意識ギャップである。
「上の人は時間が遅くなっても平気で当たり前のように働いているが、その常識の中でこれからずっとこの会社で働けると思えない」「この仕事をしていて将来に向けた成長ができているのか実感が持てない」「それでも何をしてよいか分からないし、上司たちは昔からのやり方に疑問を持たず自分たちに指示をしてくる」という悩みを聞くことが多い。

「分からないことがある」こと自体を自責的に捉え、殻に閉じこもり、孤立する若手社員。質問することを、「相手の時間を奪う行為」と考え、やがて心を閉ざしてしまう者も少なくない。年次的な基準も見えず、自分の立ち位置が分からない中で、無理をしてがんばってしまう例も多い。
要は、働くことへの意識や価値観、組織への帰属意識といった世代や立場の違いによって生じるギャップが以前よりも広がりやすくなっている一方で、そのギャップを埋めるための「空間」——気軽に声をかけたり、近くで仕事ぶりを見たり、偶然の会話が生まれるような機会——が、リモートワークの浸透や業務の効率化によって著しく縮小してしまっているのである。
「がんばり方が分からない」——成長への危機感と行き場のない焦燥感
若手社員が抱えるもうひとつの大きな特徴は、「成長しなければならない」という強い危機感である。「世界の中で相対的な位置が沈んでいく日本の中で、自分のキャリアを自分で考えて築かなければいけない」という意識は、これまでの年代よりはるかに強く、真剣に悩んでいると感じる。
こうした中で若手社員は、「このままでよいのか」「もっとスキルを身につけなければ」「他社の同期はもっと活躍しているかもしれない」といった焦りを抱えている。
ところが、その焦燥感に反して、「何をどうすればよいのかが見えない」「目の前の仕事に意味が見い出せず、成果が見えにくく、上司との距離も感じる」——まさに“がんばり方が分からない”という状況に陥ってしまうのである。
こうした不安は蓄積すると、自信喪失やうつ状態、体調不良といった形で現れる。「がんばっているのに結果が出ない」「職場に居場所がない」と感じた瞬間、彼らの心のバランスは大きく崩れるのだ。
若手に共感しきれない上司たち
一方、管理職側からは、「何がそんなに辛いのか分からない」という声もよく聞く。指導方法やコミュニケーションを変える必要があるのだろうという意識はありつつ、若手社員の抱える不安や違和感に共感しきれないケースが多い。
私が見てきた事例では、管理職からの「これくらいは大丈夫だろう」という認識の仕事が、コロナ禍によって曖昧さや理不尽さへの耐性を奪われた若手社員には重荷となっている。そして急に出社の比率が増し、リアルな人間関係の中で対応を求められ、戸惑っている。
彼らは、曖昧で理不尽な仕事だとしても慣れたら対応できる。しかし、慣れるまでは明確な指針や伴走が必要なのである。