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人事労務事件簿 | #59

不当な退職勧奨と配置転換等により、職場環境配慮義務違反があったと認定(東京地裁 令和5年4月28日)

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 社内のパワーハラスメント(パワハラ)は、2020年6月に通称「パワハラ防止法」が施行されたことなどもあり、社会的に防止の意識が高まっています。だからといって根絶されたわけではありません。今回取り上げる事案は、新しく就いた社長が1人の従業員にパワハラ行為を行ったとして訴えられたものです。企業側は敗訴したのですが、具体的にはどのような行為で敗訴に至ったのか。本稿でご確認ください。

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「Y社」)に勤務する原告(以下「X」)が、Y社のパワハラ行為や違法な配転命令によって精神的損害等を被ったと主張して、Y社に対し、損害賠償等を求めた事案です。今回はA社長からXへのパワハラについて取り上げて解説します。

(1)当事者等

 X(昭和39年生)は、平成22年、Y社に入社し、現在もY社にて勤務している者です。

 Y社は、聴覚障がい者用の人工内耳など聴覚インプラントの輸入販売を行う株式会社です。Y社の代表取締役は、平成24年5月からA(以下「A社長」)でしたが、A社長は、平成26年7月1日、代表取締役を退任し、現在のY社代表者である乙山次郎(以下「Y社代表者」)が、同年10月1日、代表取締役に就任しました。

(2)雇用契約

 XとY社は、平成22年12月1日付で、期限の定めのない雇用契約を締結しました。なお、XとY社との間で、職種等を限定する合意は存在しません。

賃金
年630万円(月52万5000円)。賃金支払日は、毎月20日締めで25日払いとする。昇給は年1回(12月分から)、1年に満たない場合は月割りとする。
職務分掌
マーケティング部オペレーティングマネージャー

(3) A社長によるパワハラ

パワハラの開始

 Y社は、平成25年3月分以降、Xの基本給を月額53万6000円から月額26万6666円に減額しました(以下「本件賃下げ①」)。これに関する経緯は以下のとおりです。

 A社長は、平成24年5月にY社の代表取締役に就任しましたが、まもなくXを厳しく叱責するようになりました。

 同年10月15日、Xに対し、就業期間は同年11月30日までと伝え、「これは解雇通知である。Xは他の人に迷惑をかけている」などと述べました。

 そして、A社長は、平成24年10月29日、Xに対し、Xが担当していたすべての装用者・難聴者関係の仕事を、他の社員に引き継ぐよう命じました。

 その理由として、Xが周囲と協調できておらず、Xに情報が入って来ないのは謙虚さがないからだと指摘しました。

 A社長は、平成24年11月5日、Xに対し、E連合会関係の業務はすべて他の従業員に引き継ぐように述べました。

 午後6時ごろには、Xが職場にいることで皆が迷惑すると述べるとともに、給与を減額するオプションがあるかと尋ねました。

 A社長は、平成24年11月9日の昼ごろと午後4時ごろの2回にわたってXと面談し、「解雇したい意思は変わらない。Xは雇用契約書記載の業務をしていないのに契約書記載の給料をもらっている。自主退社と解雇を選べるオプションがあり、その話し合いには応じる」などと述べました。

 同月15日、Xはメンタルクリニックを受診しました。

給料半額への契約変更、さらには退職勧告受け入れを要求

 A社長は、平成24年11月16日午後5時から午後7時にかけてXと面談を行い、次のやりとりをしました。

  • A社長はXに対し、従前から口頭で述ベてきたと前置きし、書面を示しながら、Xには以下の問題点があるなどと指摘しました。
    1. 自己中心的な就業態度により、指示に従わない、または与えられた業務を完遂できないことが著しく多い
    2. その場合でも上司等に協力を求めることなく、他者との協調による問題解決を試みない
    3. 顧客または取引先の依頼内容に関する情報を社内関係者と適切に共有せず、また、対応を完遂することができない場合でも、他者に協力を求めることができないため、結局その仕事も途中で止まり、ひいては顧客に迷惑をかけている
  • そのうえで、A社長は、Xに対し、職務分掌をゼネラルアドミニストレイティブアシスタントとし、給料を半額の320万円にする旨の雇用契約の変更を求め、雇用契約を変更する条件として、変更後3ヵ月を経て、上記の3つの問題点がXの努力により改善する傾向が見られない場合には退職勧告を受け入れるよう求めました。

 これに対しXは、上記各問題点について心当たりがなく、具体的な内容を教示してほしいと述べました。

 A社長は、Xが薬事法の勉強をしないこと、Xが担当したイベントで客先から多くの批判を受けたことなど複数の例を挙げましたが、Xは、自分のほうが周囲からいじめを受けていると主張し、話はかみ合いませんでした。

 また、Xが、今後もY社に居続けたい旨を述べたのに対し、A社長は、変更した契約書に署名すれば、Y社に残ることができる旨を伝えましたが、Xは、給料が半分になることや、マーケティングの仕事から外れることに納得がいかないとの姿勢を見せ、契約変更に同意しませんでした。

 上記のとおり、Xは、退職や契約変更を受け入れない姿勢を示していました。

 しかし、A社長は、その後もXに対する働きかけを続け、平成24年11月28日には、午前10時ごろから約1時間半にわたって、Xは人工内耳の知識がなく医者が何を考えているか分かっていない、マーケティングや広報の知識がないために他の人とコミュニケーションができていない、Xが同意できなくても今週中に辞令を出すなどとXに述べました。

 また、A社長は、平成24年11月30日、Xに対し、「皆に聞いたが誰もXと仕事したくないと言っている。Xがいるだけで皆に迷惑がかかる。給料は半分にする」などと述べ、同日夜、当時Xが担当していたすべての業務を今後入社する社員の担当にすることを記載したメールを社員全員に送信しました。

 そして、Y社は、平成24年12月1日付で、Xに対し、マーケティング部マネージャーから総務アシスタントへの配転を命じました(以下「本件配転命令①」)。これにより、Xは掃除・片付け・粗大ごみ担当となり、この配置が約1年9ヵ月間継続しました。

給料半額の実行、孤立していることの通告

 さらに、A社長はXに以下の言動を行いました。

  • 平成25年1月7日午後6時ごと、いまの仕事ぶりでは現在の給料は払えないなどと述べました。
  • 平成25年1月10日、もう総務だから不要なはずである、お金がもったいないなどと述べ、Xに支給されていた携帯電話の返却を求めました。
  • 平成25年1月21日午後2時ごろ、Xにはマーケティングをやるだけの能力がない、この会社であなたをサポートしてくれる人は誰一人としていないなどと述べました。
  • 平成25年3月1日、総務の仕事でこれだけの給与は払えない、皆がXと仕事したくないと言っているなどと述べました。

 そして、Y社は、平成25年3月分以降、Xの同意なく、同人の基本給を月額53万6000円から月額26万6666円に減額しました(本件賃下げ①)。

 これにより、同年2月には41万5520円であったXの手取り額は、同年3月には16万6853円となりました。この減額は1年間続きました。

 Xは、本件賃下げ①を受け、代理人を通じて、平成25年7月から平成26年8月にかけてY社と協議をしました。

 そして、Xをパブリックリレーション部(以下「PR部」)のマネージャーとすることを含む交渉が行われましたが、合意書作成には至りませんでした。

 平成26年3月25日、Y社は、Xの給与額を同月分から月額53万6000円に戻すとともに、Xに過去の減額分の賃金等を支払いました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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