人材育成の次は、労働市場への展開がおすすめ
本連載では、日本企業がスキルベース組織を導入するにあたり、人事のどの領域に適用するのか、またその順番が重要であることを繰り返し述べてきた。前回(第2回)では、まずは人材育成・キャリア開発から導入しようとお話ししたが、その次は労働市場への展開をおすすめしたい。
労働市場には、企業外部からの人材の調達である外部労働市場(中途採用、新卒採用など)と、企業内部からの調達である内部労働市場(人事異動、適正配置など)があるが、まずは外部労働市場だ。この分野では、従来の「職歴」や「学歴」に基づく評価から、「スキル」に基づいたマッチングへ転換が進むと予想される。
海外では、スキルベース採用の導入が急速に進んでいる。特に米国では、デジタル人材・IT人材といったエンジニア職の採用にあたって、それまで必須であった学歴要件(ソフトウエア工学などの学位が必要)の撤廃が進む。米国・インド・中国の3ヵ国は、デジタル人材・IT人材が数百万人規模で不足しているといわれており、学歴要件を付していたのでは人材が確保できないという社会的背景がある。
とはいえ、全くの素人を採用してゼロから育成するのはリスクとコストが大きいので、プログラミングなどの保有スキルを評価して採用につなげているのである。
中途採用の「スキル重視」は日本でも急速に進む
日本でも中途採用の分野では、今後急速にスキルベースの導入が進むと考えられる。日本では、「これまでどのような仕事をしてきたか」という経験重視の採用が行われてきた。デジタル・IT分野であれば、「どのようなプロジェクトに参加してきたか?」「その際の、あなたの役割は?」といった質問に表れている。ただし、このような経験要件だけでは、応募者の保有能力を評価することは難しい。それに加えてスキルが分かれば、採用の精度向上が期待できる。
また、経験重視の採用だと、「未経験者」は応募の時点で除外されてしまうが、スキルベース採用が実現すれば、未経験者にも門戸が開かれることになる。これは企業にとっては、売り手市場であるエンジニアの中途採用市場において、対象者が広がることにつながる。一方、応募者にとっても夢のある話であり、実現が期待される。
スキル重視の採用を行う場合、問題となるのがスキルの評価・測定である。米国のデジタル・IT分野では、評価システムを用いた「実技」が一般的になりつつある。これであれば、本人による申告の真偽の確認が可能となり、採用のミスマッチを減らせる。
日本では、資格試験が数多くあるので、保有スキルの評価には「資格」を問うことが一般的である。デジタル・IT分野であれば、情報処理技術者試験といった国家試験やマイクロソフトなどが実施している民間資格である。ただしこれだと、「資格を持っているだけで、実はそれに値するスキルは保有していない」という場合があるので、今後は日本でも実技試験を実施する企業が増えるであろう。