新卒採用でもスキルベース導入が進む——エンジニア職を例に
中途採用の次は新卒採用である。筆者は、この領域へのスキルベース導入も日本で進展すると予想している。
日本企業の新卒採用では、高度成長期から一貫して「学歴重視」の選考が実施されてきた。昨今ではさすがに学歴フィルターは消滅したようだが、採用する企業側の偏差値重視の意識は根強い。また、日本企業のもう1つの特徴である「新卒一括採用」も、昨今のデジタル・IT時代では、その非効率さが目立ってきた。
たとえば、これまで日本企業では、エンジニアとして採用した新入社員の全員が、入社後すぐに「新人導入研修」を受講していた。この集中的な育成により、全くの素人である若者をまずは最低限のスキルを持ったエンジニアとして促成栽培するのである。研修期間は企業によっては6ヵ月間にも及び、人件費に換算すれば膨大な教育コストである。
日本では、この研修制度を前提として、文系学生が当たり前のようにエンジニア候補として採用されてきた。これにより日本では、産業界全体のエンジニア不足を補ってきたのである。この制度は日本特有のものであり、先進諸国で文系学生をエンジニアとして採用しているのは日本だけである。
でもこれは、考えてみたら「おかしな話」である。本来、エンジニアリング教育は大学で終えておくべきものだ。企業としても、エンジニア育成のために“仕方なく”膨大なコストを費やしているのであり、大学できちんと教育してくれるなら、それに越したことはない。
一方、学校教育はここ数年で急速に変貌を遂げている。高校では2022年から「情報Ⅰ」の授業が必修化され、今年の大学入学共通テストからすべての国立大学で受験科目に編入されている。大学でも近年、毎年20を超える大学で情報学部・情報学科の新設が相次いでいる。つまり「高校・大学でまったく何も教えていない」という状況からはやっと日本も脱しつつある。
以上の状況を踏まえれば、「学部によらず一律に採用して、入社後も全員で同じ研修を長期間にわたり受講する」という従来の日本式の採用・研修は、今となっては非効率(高コスト)であり、今後は情報学部の卒業生や同程度のスキルを有している学生であれば、長期間の初期導入研修は不要であろう。そういった学生の選別評価のためにスキル重視の採用が必須になる。
また、現在の「文系採用」では、毎年ある一定の割合で「エンジニア適性のない学生が入社してくる」という課題があるが、そのようなミスマッチを防止する目的からもスキルベース採用は有用である。
これらの話を進めれば、その延長線上に「学歴不問」の新卒採用がある。少なくともエンジニア採用では今後学歴を問う必要はなくなる可能性が高い。なお、ここで述べる学歴とは大学名のことであり、学部名(専攻)は今後も問う必要があるので、念のため付記したい。いずれにせよ、スキルベース採用が今後の日本の古臭い採用方法を一変させることに期待したい。