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人事労務事件簿 | #60

求人票に記載の条件で、契約書作成前に労働契約が締結されたと判断(大津地裁 令和6年12月20日)

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2. 裁判所の判断

(1)内定について

 本件求人票においては、配置先、採用職種、仕事内容、身分、賃金といった労働契約の要素がおおむね具体的に特定されている。

 そのうえ、本件内定通知の際にXに勤務開始日が伝えられ、Xがこれを了承していることからすると、本件内定通知時点では、XとY社との労働契約の内容が具体的に定まっているものと認められる。

 本件内定通知時点において、Y社によりXとの労働契約締結に何らかの留保が付されたことはうかがわれないことからすると、Y社代表者の了解を得て行われた本件内定通知は、「Xの求人応募という労働契約の申込みに対するY社による承諾の意思表示」とみることができる。

 本件内定通知により、XとY社との間には、就労開始日を令和5年7月1日とする始期付契約が成立したと解するのが相当である。

 Bは、Xに対し、本件内定通知時に、労働契約締結のために令和5年6月21日にY社の事務所に来るように伝えた旨を供述する。

 仮に、BがXにそのような発言をしていたとしても、本件契約書の作成は、労働契約締結を確認するための行為と解することができるから、本件契約書作成時までXとY社との間に労働契約が締結されていなかったことを意味する事情とはいえない。

(2)始期付契約の成立

 Xは、本件求人票記載の内容で労働契約の締結を申し込んだものと認められる。

 Y社は、Xに対し、本件契約書作成時まで、雇用期間について説明することはなかったのであるから、Y社は、本件求人票記載の内容によるXの労働契約締結の申込みにつき、雇用期間に関して何らの言及なくこれを承諾したものといえる。

 本件始期付契約は、求人票記載の雇用期間をその内容として成立したものと認めるのが相当である。

 したがって、本件始期付契約によるXとY社との労働契約は、本件求人票記載のとおり、試用期間を2ヵ月とし、雇用期間は定めがないものとして成立したものといえる。

(3)Y社の主張を認めず

 Y社は、求人票の記載は誤りであり、本来は、当初は雇用期間を2ヵ月とする有期労働契約であり、その後、業績によって無期労働契約として再契約するのが正しいところ、Y社の事務担当者が誤って求人票を記載したものである旨を主張している。

 Bもその主張に沿うような供述をする。

 確かに、本件契約書の記載は、更新がない旨の記載があることなどからして、試用期間に代えて有期労働契約(試行的有期労働契約)を先行し、本採用に代えて期間の定めのない労働契約を再締結する場合の試行的有期労働契約の内容に沿っているものといえる。

 Y社としては、2ヵ月間の試行的有期労働契約を先行する趣旨で、試用期間2ヵ月と記載した可能性も否定はできない。

 しかしながら、仮にY社が内心においてはそのような認識であったとしても、外部に表示されたのは本件求人票の記載の内容であることから、Y社がそのような内心を有していたことは本件始期付契約の内容に影響を与えない。

(4)雇用期間の変更は、重要な労働条件の変更に該当

 本件契約書の作成は、本件始期付契約によるXとY社との労働契約の変更合意に当たると解し得るため、次に、その有効性につき検討する。

 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯およびその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。

 そして、就業規則によらない労働条件の変更のうち、賃金等の変更に比肩するような重要な労働条件の変更にも当てはまるものと解するのが相当であるところ、雇用期間を期間の定めのないものから、2ヵ月という短期の雇用期間に変更する合意は、賃金等の変更に比肩するような重要な労働条件の変更に当たるものといえる。

 したがって、本件始期付契約の雇用期間の定めがないという労働条件を、本件契約書により本件契約書記載のとおり雇用期間を2ヵ月へと変更することの有効性についても、上記ことわりが当てはまるものといえる。

(5)雇用期間の内容が有効に変更されたものとはいえないと判断

 Bは、本件契約書作成時に、2ヵ月の試行的有期雇用を先行することについて適切に説明をし、Xの承諾を得た旨を供述する。

 しかし、雇用期間の定めがないものを2ヵ月の有期雇用とすることは、雇用期間の定めがない正社員を募集する本件求人票による求人に応募したXからして相当の不利益変更であるため、相応の疑問が呈されたり、反発されたりすることが予想されるにもかかわらず、Xをどのように説得したのか具体的な供述はない。

 したがって、Xに対し、そもそも2ヵ月の試行的有期雇用の先行につき具体的な説明をせずに本件契約書を取り急ぎ作成させたか、2ヵ月の雇用期間については試用期間のような趣旨である旨の適切とはいえない説明をしたため、Xにおいて有期雇用に切り替えることについて適切な検討をさせないまま本件契約書の作成に応じさせた可能性が、相当程度存在する。

 したがって、本件契約書の作成は、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとは認め難く、これにより本件始期付契約における雇用期間の内容が有効に変更されたものとはいえない。

(6)XとY社との間の雇用期間の定めのない労働契約は、現在も継続していると判断

 以上からすると、XとY社との間の労働契約は、雇用期間の定めのないものであるところ、労働契約の終了通知につき、Y社は、Xに対する解雇の意思表示ではない旨を主張していることからすると、本件においては、Y社による解雇の意思表示があったものとは認められない。

 仮に、Xが主張するとおり、上記終了通知がY社による解雇の意思表示であったとしても、解雇の有効性を基礎付ける事実については何らの主張がない。

 したがって、XとY社との間の労働契約が、解雇によって終了したものとは認められず、XとY社との間の雇用期間の定めのない労働契約は、現在も継続しているものと認めるのが相当である。

次のページ
3. 要点解説

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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