4. 訴訟になる前に取っておくべきだった対応(予防策)
(1)採用決定の連絡は慎重に行い、丁寧な対応が必要
求人票記載が「雇用期間の定めなし」としておきながら、採用決定の連絡後に雇用期間を2ヵ月とし、契約更新しないとした取り扱いは問題でした。
今回のように、求人票記載の内容と異なる条件(今回は、雇用期間の変更)で採用する場合は、採用決定の連絡前に丁寧に説明し、Xの同意を得ておくべきでした。
あらかじめ、2ヵ月の雇用期間であれば採用することについて丁寧に説明し、Xが納得し同意すれば、このような訴訟の提起に至らなかったと思います。
なお、確かに、求人時の条件と実際の労働条件が異なっていても、直ちに違法となるわけではありませんが、その労働条件で労働契約を締結するつもりが最初からないにもかかわらず、あえて有利な労働条件を求人票に掲載し求職者を集めることは、いわゆる「求人詐欺」になります。
こうした点も注意しておく必要があります。
(2)求人票について
今回は、ハローワークでの求人票を見て応募したところ、労働条件が異なり、トラブルになりました。
実際、このようなトラブルは多発しており、厚生労働省が公表した「令和5年度 ハローワークにおける求人票の記載内容と 実際の労働条件の相違に係る申出等の件数」では、以下のとおりの申出件数となっています(数値は全国計)。
- 申出・苦情等件数:3761件(令和4年度は3890件)
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内容別件数
申出等の内容(主なもの) 令和5年度 件数
(割合)令和4年度 件数
(割合)賃金に関すること 1108件(21.6%) 1085件(20.8%) 就業時間に関すること 711件(13.9%) 765件(14.7%) 職種・仕事の内容に関すること 644件(12.6%) 685件(13.1%) 選考方法・応募書類に関すること 642件(12.5%) 600件(11.5%) 雇用形態に関すること 280件(5.5%) 358件(6.9%) 休日に関すること 332件(6.5%) 309件(5.9%) 雇用期間に関すること 215件(4.2%) 207件(4.0%) 就業場所に関すること 219件(4.3%) 238件(4.6%) 社会保険・労働保険に関すること 169件(3.3%) 194件(3.7%) ※1件の申出等で複数の内容を含むものは、それぞれの内訳に計上。
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主な要因別件数
- 求人票の内容が実際と異なる 1609件(1902件)
- 求人者の説明不足 1221件(1226件)
- 言い分が異なる等により要因を特定できないもの 450件(356件)
- 求職者の誤解 307件(308件)
- ハローワークの説明不足 76件(41件)
※1件の申出等で複数の内容を含むものは、それぞれの内訳に計上。
※括弧内は令和4年度の数値。
本事案のように「雇用期間の認識が食い違っている」「求人票の内容が実際と異なる」「求人者の説明が不足している」といったことを原因とするトラブルが、実際に多く発生しています。
ハローワークでは、ハローワーク求人ホットライン(03-6858-8609)を設けています。ハローワークやハローワークインターネットサービスで公開・紹介している求人の内容が実際と違っていた場合には、担当のハローワークにおいて、事実を確認のうえ、会社に対して是正指導を行うこととしています。
また求人票については、誤解を招かぬよう、適切に記載することを心掛ける必要があります。