スタートアップがつかむ“一体感”の正体とは
——スタートアップ企業に成功事例が多いとすれば、うまくいっている企業にはどのような共通点が見られますか。
野間 ウェルビーイング経営の要件は、「愛社精神(この職場が好き)」「仕事の愉しさ(仕事自体が愉しい)」「魅力的な仲間(人として魅力的な仲間)」の3つがそろっていること。この3つを従業員に実感してもらうには、日常的なコミュニケーションや働く環境の工夫、マネジメントや評価制度など、さまざまな視点からのアプローチが必要です。

野間 実際に、私が訪問したスタートアップ企業を見ても、やはりトップのマインドは最重要だと感じます。経営層の意識が高いと、社員1人ひとりを大切にする文化が自然に生まれ、同じ価値観に共感する人材が集まります。
結果として、掲げる組織目標にも共感が集まり、仕事自体を“自分ごと”として楽しめるようになる。中には、目立った制度を導入していなくても、ワークエンゲージメントの高い会社もあります。
井無田 経営が従業員と目標や価値観を共有することで、「資本家vs労働者」という対立関係ではなく、同じ目標を目指す仲間としての関係性をつくるのが重要だということですね。
野間 おっしゃるとおりです。毎年、ウェルビーイング向上の目標を全社で掲げて、GPTWの働きがいのある会社ランキングに認定されることを目指しています。経営と社員が誇りを感じられる目標を共有し、一丸となって取り組むことで、経営への参画感、経営への信頼感が醸成されます。
「働きがい」と「事業成長」を両立する施策例
——他に共通する取り組みのポイントはありますか。
野間 ウェルビーイング経営では、「働きやすさ」と「やりがい」の両面が重要です。働きやすい環境づくりは、実践しやすいことに加えて若手世代に対して有効です。1人ひとりのライフスタイルに合わせて、リモートワークなど柔軟な働き方を認めながらも、「自宅にいるよりも仕事がしやすいオフィス」を実現している企業も増えています。
たとえば、集中作業用の無音ブースや、オンライン商談用の専用スペース、雑談が生まれるフリーアドレス制など、職場環境の快適化は、衛生要因(満たされないと不満になる要因)ながら効果的です。業務外の社内サークル活動に補助を出している企業も多いですね。
井無田 テックタッチでも、従業員同士のコミュニケーション活性施策はいくつか設けています。野間先生がおっしゃったような部活動制度もありますし、社内メンバー同士でランチへ行く際は、1000円分を補助する「社内ランチ」制度も人気です。
また、新入社員のオンボーディングでは、業務上早めに接点を持っておきたい15人をメンターが選び、1人ずつ15分の1on1を行う「1on1スタンプラリー」を実施しています。短期間で心理的な距離を縮められる仕組みです。
野間 どれも素晴らしい取り組みですね。加えて、テック企業ではリモートで働くメンバーが疎外感を覚えないような仕掛けも大切です。たとえば、自宅からでも直感的に使えるように社内システムのUI/UXを工夫したり、遠隔でも雑談や感謝を交わせるカルチャーづくりに取り組んだりしている会社が多いです。
井無田 たしかにそれは大切な観点ですね。当社にも、Slack上で気軽に「Thanks」を贈り合う文化があります。業務を進める中で発生するちょっとした感謝の気持ちを可視化し、物理的な距離を感じさせないようにしています。
野間 やはり貴社でもそうした工夫をしているのですね。私が知る限り、「働きがいのある会社」ランキング上位企業はそうした日常の細やかな気遣いや工夫を継続しています。1つひとつは小さなことかもしれませんが、その積み重ねが、会社や仲間、仕事への愛着を育てていくのだと思います。
後編では、井無田氏が実際に取り組んできたウェルビーイング経営の制度や文化、組織づくりを具体的に紹介します。