組織学習とルーティンの重要性
さらに、このルーティンは単なる習慣以上の意味を持ちます。それは、「組織学習」の重要な媒介となるからです。
組織学習とは、組織が経験を通じて知識を獲得し、その知識を行動や意思決定に反映させることで、組織全体の能力やパフォーマンスを向上させていくプロセスのことです。個人が経験から学ぶように、組織もまた、成功や失敗の経験、市場や顧客からのフィードバック、競合他社の動向など、様々な情報を取り入れ、それを組織全体の共有知識として蓄積し、活用していきます。
組織学習には、主に2つのレベルがあります。
- シングルループ学習
- 既存のルールや目標の枠内で、問題解決や効率改善を図る学習です。「目標達成のために、どうすればもっとうまくやれるか?」という問いに対する学習であり、既存のルーティンを微調整するようなイメージです。
- ダブルループ学習
- 既存のルールや目標そのもの、あるいは組織の前提となっている価値観や信念を問い直し、変革していく学習です。「そもそも、この目標は適切なのか?」「このやり方自体が間違っているのではないか?」といった根本的な問いを立て、組織のあり方そのものを変革していくような学習です。

組織ルーティンは、特定の状況下で望ましい行動や意思決定のパターンを組織全体に浸透させ効率を高めますが、同時に、過去の成功体験に基づくルーティンが、変化の激しい現代においては足かせとなる可能性も秘めています。だからこそ、ここで組織学習の考え方が重要になるのです。
良い組織ルーティンを形成するためには、単に効率的な手順を確立するだけでなく、そのルーティンが本当に組織の目的に合致しているのか、環境の変化に対応できているのかを常に問い直す視点が必要です。
まず、シングルループ学習によるルーティンの改善の例をイメージしてみましょう。日々の業務の中で発生する小さな課題や非効率性を、既存のルーティンの中で改善していくことで、ルーティンはより洗練され、効率的になります。たとえば、会議の進め方や資料作成の手順を定期的に見直し、よりスムーズな流れを模索することなどがこれに当たります。
次に、ダブルループ学習によるルーティンの変化をイメージしてみます。組織を取り巻く環境が大きく変化したり、既存のルーティンが根本的な問題を引き起こしたりしている場合、ダブルループ学習が必要となります。これは、これまで「当たり前」とされてきたルーティンの前提そのものを疑い、大胆に変革していくことを意味します。たとえば、部門間の壁を越えた協業を促すために、従来の縦割り組織のルーティンを根本的に見直す取り組みにチャレンジするというようなパターンです。
これらの例を見てみると、組織ルーティンが組織学習のサイクルと密接に結び付いていることを理解していただけたのではないでしょうか。ルーティンを通じて組織は学習し、学習を通じてルーティンを改善・変革していく。このダイナミックな関係性こそが、組織を「生き物」として成長させ、変化に適応させる原動力となるのです。
先ほど紹介したカルチュラルスタディーズが重要視するのは、既存の支配的な文化や常識に対する批判と解体です。組織文化においても、これまで「当たり前」とされてきた規範や慣習が、実は特定の集団や権力を持つ立場の人にとってのみ都合の良いものであったり、イノベーションを阻害していたりする可能性があります。HRチームは、このような固定化された組織内の「小さな文化」に潜む問題点に目を向け、時にはそれを批判的に検証し、解体していく勇気を持つことが求められます。それは、組織をより公平で、開かれた、そして変化に強いものにするための重要なプロセスなのです。