2027年労基法改正——40年ぶりの転換が意味すること
2027年に予定される労基法改正について、専門家が「40年ぶりの大改正」と評するのは、この改正が単なる部分修正ではないからです。働き方の前提そのものを組み替え、働き方を自由にし、戦略的で多様な判断をしていく基本的な考え方を含む内容となっているからです。こうした社会背景や改正の根本理念に近い内容は、労基法大改正の前提となった、新しい時代の働き方に関する研究会 報告書で多く言及・分析されています。
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なぜこうした改正が必要になったのでしょうか。それは、従来の労働法制が想定していた働き方のモデルと、現代の働き方の実態が乖離してきたからだといえます。従来のモデルは、「同じ場所に人が集まり、同じ時間に働き、1つの組織に専属する」というものでした。工場労働や事務所勤務を前提に、「事業場」という物理的な場所を単位として36協定を結び、就業規則を適用し、労働時間を管理してきました。
しかし、現在は状況が変わっています。リモートワークが常態化し、副業・兼業が広がり、プロジェクト型の協働が増え、フリーランスとの協業も日常的です。事業場という場所の概念では捉えきれない、また労働時間や場所、1社の企業に専属的ではない働き方がすでに現実となっています。この構造的なズレを放置すれば、企業は柔軟な人材活用ができず、働く側も自分に合った働き方を選べません。だから、制度の前提を組み替える必要があります。それが今回の改正の根本的な理由であるといえます。
3段階で進化してきた雇用政策
今回の労基法改正を理解するには、2017年以降の雇用政策の流れを俯瞰する必要があると考えられます。これは筆者の整理であり、それぞれの政策には独自の経緯がありますが、あえてシンプルに整理することを目的に、大枠の流れを俯瞰することは重要だと思います。
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まず第1段階として「働き方改革」(2017年~)では、長時間労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化など、過重労働を是正する「規制」が整備されたのだといえます。企業は長時間労働に依存した経営モデルからの脱却を迫られました。
第2段階は「人的資本経営」(2022年~)です。「人材版伊藤レポート(1.0)(2.0)」や「人的資本可視化指針」により、従業員を「価値創造の源泉」として位置付ける動きが本格化しました。また採用・育成・配置・評価といった人事プロセスを経営戦略と統合する動きも広がりました。ただし多くの企業では、人的資本経営は「育成」や「エンゲージメント」といった人事施策にとどまり、労働時間管理や勤務形態といった「働き方」の実務には踏み込めていません。
第3段階となる「労基法改正」(2027年~)が、この流れを完成させます。人事施策の戦略化だけでなく、労働時間管理、勤務形態、労使コミュニケーションといった実務レベルの「働き方」そのものを、人材戦略と一体化させる内容となっています。
つまり、3段階で一貫しているのは、「画一的な働き方」から「多様で柔軟な働き方」への転換です。第1段階で過重労働を是正し、第2段階で人材への投資を進め、第3段階で働き方の実務まで含めて多様性を実現する。この流れの中に、今回の労基法改正は位置付けられます。

