「全員未経験」からの再始動 突きつけられた経営課題
——2021年7月、採用チームのメンバーが総入れ替えになったとお聞きしました。当時の状況を教えてください。
井上泰輔氏(以下、井上) なぜメンバーが一新されたのか、その詳細は私たちにも知らされていないんです。あくまで定期異動の結果として、採用経験者が1人もおらずまっさらな状態からスタートしました。
ただ、当時、人事部門のトップだった執行役専務からは、「これまでの味の素社の採用にとらわれなくてよい。ゼロベースで作り直してほしい」というオーダーがありました。
——そのオーダーには、どのような役割や期待が込められていたのでしょうか。
井上 託されたのは、大きく2つのミッションです。1つは「キャリア採用の構築」(※)、もう1つが「若手の定着」でした。
当時、営業部門を中心に、入社後すぐに辞めてしまう、あるいは休職してしまう若手が少なくありませんでした。私は営業部門に15年在籍しており、何度もそうした場面を目の当たりにしてきました。彼らが口にするのは、決まって同じような言葉でした。「就職活動のときに聞いていた話と違う」「こんなはずじゃなかった」「しんどい」と——。
井上 泰輔(いのうえ たいすけ)氏
味の素株式会社 人事部 人事グループ 採用チーム長
2006年に新卒で同社に入社。15年ほど営業部門に在籍し、2021年7月人事部に異動。以来、採用チーム長を務め、新卒採用、キャリア採用を管掌する。
採用のあり方そのものを見直さない限り、同じことが繰り返され、会社も人も不幸になる。そう痛感し、この状況を変えていきたいと強く思うようになりました。加えて、こうした若手の離職や休職は、当時の経営会議でも議論されるほど、深刻な経営課題になっていました。
そこで、私たちに託されたのは、「イメージアップ」や「エントリー数の増加」ではなく、“味の素社で働くことに心からコミットできる人を採り、定着させること”。それが新チームに与えられたミッションでした。
——大野さんは、そのタイミングで採用チームに配属されたとき、どのようなお気持ちでしたか。
大野紗代子氏(以下、大野) 私はもともと研究開発職(R&D)でしたが、以前から「いつかは採用に携わってみたい」という想いはありました。ただ、当時は育休から復職してまだ1年経たないタイミングでの異動で……。正直、「本当に自分に務まるのか」「業務が回るのか」という不安もありました。
井上 もう2人も、1人は営業部門出身の若手、1人は2021年4月に入社したばかりの新入社員でした。全員が「明日から何をすればよいのか分からない」という、まさに手探りの状態だったんです。この4人で、当時は新卒採用、キャリア採用、新入社員研修、2年目研修と、採用から入社後のオンボーディングまでを担当していました。
チームの業務負荷は想像以上に高く、心身ともに苦しい状況でしたが、それでも不満を口にするメンバーは1人もいなかった。それぞれが「採用担当者としてできることは何かを考えよう」という姿勢で臨んでくれていたので、チームとしての目線は最初から自然とそろっていました。
徹底的な「現場ヒアリング」から見えた4つの課題 責任の所在は?
——何から手をつけてよいか分からない状態から、どのように動き出したのですか。
井上 まさにゼロからのスタートでした。だからこそ、まずは「話を聞きに行く」ことに徹しました。新卒の採用戦略を立てるために、全国の配属先にいる入社1〜3年目の若手社員、約100人を訪ね歩いたんです。それと同時に、社外のHR業界のプロの方々にも教えを請いに行きました。自分たちが何も知らないことを自覚し、とにかく現場と市場のリアルを知ることから始めたんです。
——ヒアリングを経て、どのような課題が見えてきたのでしょうか。
井上 若手の悩みは、大きく4つのパターンに分類できることが分かりました。
1つ目は、「聞いていた話と違う」という入社前後のギャップ。2つ目は、「なぜ自分がここにいるのか」という配属先への腹落ち不足。3つ目は、人間関係や職場風土の不適合による職場環境の悩み。4つ目は、仕事ができない、叱られるといった業務遂行におけるスキル的な壁です。
当時は、「すぐに休む人を採る人事が悪い」「良い人を採っても育てられない職場が悪い」と、責任を押し付け合うような空気もありました。でも、それでは若手が幸せに働ける環境はつくれません。そこで私たち採用チームは、「どちらが悪いか」ではなく、「人事と各職場が一緒にやっていこう」というメッセージを強く打ち出しました。
そして、若手の課題を4つに整理したうえで、「入社前後のギャップ」と「配属先への腹落ち」は採用チームの責任領域、「職場環境」と「業務遂行上の課題」は配属先(職場)の育成責任と明確に定義しました。そのうえで、採用チームとしては入社前後のギャップを生まないことと配属先への腹落ちを高めることに注力し、各職場と手を取り合いながら、この2点を新卒採用の方針として掲げたんです。

