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人的資本経営 Executive Deep Diveレポート | #3

生成AIとAgentic AI(エージェント型AI)がもたらす業務変革とEmbedded HR

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「投資と信頼のパラドックス」を乗り越えるためのAgentic AI

松岡 日本の人的資本経営の文脈では「生産性向上のためにDX・AIを進めなければ」というプレッシャーともいえる強い空気があります。一方で幸田さんは、米国でも投資意欲は高いが、信頼が下がっていると整理されました。

幸田氏 シリコンバレーにいると、技術的に前向きな話が多いです。みんな技術を信じて、それに人生を懸けて集まってくる人が多い土地なので、AIでいろんなことができそうという話は非常に多く聞きます。しかし、実際にやってみたらできない、という話も多いと感じます。それをファクトベースで書いているのがこちらです。

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 企業のAI投資意欲は依然として非常に高いです。ただ、エージェンティックな機能に対する信頼、つまり自律性を高めて本当に業務に貢献できるのかという意味での信頼は下がっています。理由は技術的な課題で、失敗率が高い。タスク成功率が十分でない状況があります。さらにROI(投資対効果)が低いことも課題です。MITのレポートでも、サーベイ上は「95%のPoC(概念実証)が目標のROIに至っていない」という結果が示されています。

松岡 投資は増えているものの、技術面と投資対効果の面で「任せられるほどではない」という冷静な判断をされているのですね。

幸田氏 はい。だから「Agentic AIは来ない」のではなく、回避策として「自動化の範囲を広げる」という発想が求められています。PoCは小さく始めるのが定石ですが、逆の発想が必要です。

 AIエージェントに自律性を期待するなら、適切なコンテキストデータ(文脈データ)が必要です。次図の青い円は、そのAIが認識できる範囲を示しています。これを小分けにしてしまうと、文脈に応じた動き、言い換えると、人間が期待するような動きができないということになります。加えて、次図の左側では、AIエージェントの間に人間が挟まっていますね。このように人間が間にいるだけで、人間への説明や、人間による理解と確認というプロセスが入り、ROIが高まりにくい。

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 そうではなく、AI同士で情報を受け渡しながら自動化を進めたほうが効率を高めやすい。この流れを受け、期待されているのが「マルチエージェントシステム」です

 Agentic AIのところでご説明したとおり、複数のエージェントが連携しながら動いている(上図)。しかし、左側のPoCがなかなか目標のROIに至らないので、あえて自動化の範囲を広げることで目標を達成していこうというアプローチが取られている。そうした実装を支える技術として、Agentic AIというキーワードが注目されているのです。

「Embedded HR」とは何か——支援活動が“主活動の中に埋め込まれる”

松岡 ここから、Embedded HRについてもお話しいただきます。

幸田氏 企業の活動をバリューチェーンで見ると、上段の主活動(営業・物流など)では、ワークフロー全体の自動化が進んでいます。背景には、AIがコンテキストを理解し自動化する流れを、できる限り長くしたほうが、効率化の効果が大きくなるという考えがあります。AIへの多額の投資に見合うだけの幅広い自動化をするために、一定のROIを達成できるケースを模索していく、「バリューチェーンレベルでの自動化」というアプローチが模索されているわけです。

 これと比較して、下段の支援活動(経理財務・人事など)は、主活動のフローの中に下から上へ機能が組み込まれていく「Embedded(エンベデッド)」化の動きが始まっています。従来の「人事部の中に人事機能がある」のではなくなり、バリューチェーン横断で“組み込まれる”方向ですね。支援活動側で完結するのではなく、主活動のマルチエージェントの中に人事機能が“入っていく”というイメージです。

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松岡 日本企業の現場の感覚として、人事は日々の業務対応の負荷が大きすぎて、戦略人事(戦略・要員計画・分析)に時間が割けないという悩みがあります。

幸田氏 たとえば、経理財務は想像しやすいですね。プロジェクト実行の流れの中に、チェックや報告が埋め込まれています。人事も、人事規定順守の確認や社員からの問い合わせ対応、オルタナティブデータ活用を通じた人事評価精緻化といった機能はエンベデッド化されることで、本来取り組みたかったが着手できなかったことに取り組めるようになるのではないでしょうか。

 エンベデッドという考え方は、人事がこれまでも取り組もうとしていた部分だと思っています。たとえば「戦略人事」や「人事機能を発揮しながら現場に入っていく」といった発想です。ただ、それがワークしなかった面もあるはずです。

 理由としては、大量に人がいて大量にいろいろな物事が起こる現場に、専門人材である人事が、たとえばHRBPとして入り込んでいくこと自体がそもそも人的リソースの面で成り立たない、という点があったのだと思います。さらに、「聞けることは何でも聞いてしまえ」という状態になって大量の質問が来る、といった話もよく聞きます。

 そのため、エンベデッドを実現する前提として、人事機能にはAIによる自動化や、人的リソースを捻出するための工夫が当然必要になります。ここでの「エンベデッド」は、できる限りその自動化検討の中で「エンベデッドでできる形」にゴールを設定しよう、というメッセージだとも捉えています。

 つまり、人事部門が自分のチームや部署の中だけで完結する自動化を目指すのではなく、「エンベデッドする」というゴールを目指して自動化を進めることで、会社全体として価値のある自動化の検討ができるのではないか、ということです。そういうコンセプトとしてのエンベデッドは、まず実現したいところです。

松岡 クライアント企業をご支援する中で、高い専門性をもって現場に入っていかれるHRBPの皆様が、現場の「人が足りない」という声への対応で採用業務に追われ、戦略人事に十分な時間を割けないという声や、人事企画部門で経営戦略理解、事業理解を進めて、すべての部門の状況を踏まえた動的人材ポートフォリオを定義・管理するのは現実的でないという声を、数多く伺います。

 戦略を実現するために、将来のいつ、どのような人材が何人必要なのかを明らかにする人材ポートフォリオの管理・運営は、戦略人事機能の本丸と考えられていますが、その機能はもうフロント部門に埋め込み、エンベデッド化してしまうほうがより効果的なのではないかと、私は考え始めています。

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マッキンゼーの事例——“20日が2日”は何が変わったのか

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この記事の著者

松岡 佐知(マツオカ サチ)

ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 人的資本経営ドメイン シニアプリンシパル

京都大学法学部卒業、London School of Economics and Political Science修士課程修了(MSC in Internationa...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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