AIは効率性やイノベーションを飛躍的に高める可能性を持ち、ビジネスのあり方そのものを変えつつあります。しかし導入が広がる一方で、多くの組織は真に変革的な成果につなげることに苦戦しています。AIの可能性を最大限に引き出すためには、テクノロジーそのものではなく、文化・スキル・戦略を整え、人を変革の中心に置くことが成功の鍵となります。本稿では、筆者が所属するEYの最新調査で明らかになった、効果的なAI導入と持続的な組織変革を実現するための重要なポイントを共有します。
AI導入の期待と現実
多くのビジネスリーダーが、AIを「あると便利」なツールというだけではなく、不可欠なツールと認識するようになりました。しかしその熱い視線とは裏腹に、AIの潜在力を十分に引き出せている企業は多くありません。
EYの調査「Work Reimagined Survey」では長年にわたり働き方の進化を追跡調査しています。
2025年の同調査では、職場におけるAIに焦点を当て、なぜ変革的な成果を達成する組織がある一方で、多くの組織が限定的な成果にとどまるのかを分析しました。29の国・地域の従業員1万5000名とビジネスリーダー1500名を対象に調査を実施し、生産性、仕事の質、意思決定、働くうえでの多様な体験価値など、幅広い成果指標を分析しました。次にその結果を紹介します。
まず、88%の従業員と、ほぼすべてのリーダーおよびマネージャーがAIを仕事で利用していますが、この高い採用率は誤解を招く可能性があります。多くの従業員が情報検索(54%)や文書要約(38%)といった基本的なタスクに限定してAIを使用しており、複数のツールを効果的に使いこなし、実質的な生産性向上を実現している上級ユーザーはわずか5%にとどまっています。
つまり、従業員はAIによって多少の時間短縮は実現しているものの、仕事の進め方や価値創造の仕組みそのものは変わっていないケースが多いのです。そしてAI導入を戦略的に進め、高い価値につなげられている企業は全体の28%に過ぎません。
AIで成果を出す企業が強い「5つの領域」とは
この28%の組織は何が違うのでしょうか。調査から、AI導入で成果を上げている組織には、次の5つの領域で強みがあることが明らかになりました。5つの領域を個別ではなく「互いに補完し合うシステム」として捉えている点が特徴です。
次の領域で優れていることが、AI変革を持続的に成功へ導くための、EYが「人材優位性」[1]と呼ぶ優位性の実現につながります。
- 健全な人材活用:採用・配置・役割設計を見直し、テクノロジー変革に合った人材基盤を整える
- 卓越したAI活用:企業内のAIソリューションと個人利用のツールの双方を最適化し、活用をスケールさせる
- 学習設計と能力開発:役割に応じたAI学習を設計し、日常業務の中で学び続けられる仕組みをつくる
- 変革を推進する組織文化:変革を当たり前にできる文化を育み、部門を越えたコラボレーションを促す
- 戦略的な報酬体系:新しい行動や成果を後押しする報酬体系に整え、変化するニーズに対応する
これほどの規模と深さを持つ変革は、決して容易なものではありません。単なるテクノロジー導入として捉えてしまうと、期待に沿う効果は得られません。むしろ、本質的には人と組織の変革として捉えることが重要です。
注
[1]: 人材優位性とは、「健全な人材活用」「卓越したAI活用」「学習設計と能力開発」「変革を推進する組織文化」「戦略的な報酬体系」という5つのドライバーに注力することで、ビジネスにおける継続的な競争優位性を高める概念を指します。
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ビリマック ダニエル(ビリマック ダニエル)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング ディレクター
日本の大手総合商社などを経て現職。デジタルトランスフォーメーションやテクノロジー導入に伴う改革のチェンジマネジメント、組織文化の分析と変革、戦略的コミュニケーション、従業員エンゲージメント、人材戦略の構築などの...
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