あらゆる変革の中心に「人」を据えること
AIやその他のテクノロジーがどれだけ進化しても、どんな変革においても「人を中心に据えること」が不可欠です。EYは、組織の変革の進め方を再定義することを目的に、オックスフォード大学サイード・ビジネススクールと共同研究を行っています。この研究から得られた示唆は、人を中心に据えた形で変革を再設計する新たなアプローチの必要性を示しています。
2024年のレポートでは、同研究の第一段階で明らかになった、変革成功の可能性を高める6つの成功要因(変革ドライバー)の重要性があらためて裏付けられました。
調査では、上級リーダーの67%が過去5年間に少なくとも1回は期待を下回る変革を経験していると回答しています。しかし、次の6つの成功要因にしっかり取り組むことで、成功確率を28%から73%へ、つまり約2.6倍に高めることができるとされています。
- リーダーが優先すべき6つの変革ドライバー
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- リーダーシップの発揮:必要なリーダーシップスキルを身につけて強化する。自己変革にも投資し、効果的なコミュニケーションを通じて協働的なリーダーシップを重視する
- 動機付けの創出:全員に響くビジョンをつくり、従業員が「もう一歩踏み込んで頑張りたい」と思えるような方向性を示す
- 寄り添う姿勢:多様な意見を尊重し歓迎する文化を育む。従業員の声に耳を傾け、懸念を理解し、支援する
- 挑戦の奨励:責任範囲を明確にし、変化に備える。試してみることを奨励する文化を整え、素早い学びを重視するマインドセットを育てる
- 能力の構築:テクノロジーやケイパビリティを活用し、具体的な行動につなげる。デジタル時代に沿ったマインドセットやスキルを育てるために、必要な学びや感情面の支援を提供する
- 協働の促進:従業員が協力しながら自らの仕事を見直せるよう促す。タスク面と行動面の両方で、変えるべき点の再設計を支援する
どのような変革であっても、順調な時もあればそうでない時もあります。その過程で揺れ動く人の感情の起伏を無視するのではなく、変革には不可欠な要素として受け止めることが重要です。
これら6つの変革ドライバーを支える実践を組織的に取り入れることで、変革が成功する可能性は大きく高まります。そう考えると、HRは変革を支える役割を担うのに最適な立場にあります。
HRが変革の旗振り役となるチャンス
AIはいま、新たな重要なフェーズに入っています。生成AIからエージェント型AIへと移行する中で、その価値は、意思決定を支援する存在から業務全体を実行する存在へと広がりつつあります。この変化が示すのは、AIは仕事を奪うのではなく、タスクレベルで業務を補完し、人の能力をさらに引き上げる存在であるという重要な事実です。
ワークフォース戦略、従業員体験、組織文化を形づくる役割を担うHRは、まさにAI活用を推進し、人を中心に据えた変革を体現できる立場にあります。特に、戦略的HRの基盤となるピープルアナリティクスは、この時代にさらに力を発揮します。離職、⽣産性、報酬設計、ウェルビーイング、組織文化の整合性、従業員体験といった要素を分析することで、どの領域にAIを活用すれば価値が生まれるのかをHRが正確に見極めることができるようになります。これらの洞察は、そのまま組織設計、業務分析、スキルギャップの把握へとつながります。
こうした基盤が整うことで、HRはまず自部門で、高頻度・高ボリュームの定型業務にAIを活用する動きを先導できます。それにより、HRメンバー自身が、戦略的なワークフォースプランニング、リーダーシップ開発、組織文化の醸成といった付加価値の高い業務により多くの時間を割けるようになります。
また、HRが自らAI活用の成熟度を高め、AIによる業務拡張の効果を体現することで、組織全体の模範となることができます。さらに、HRが意図を持った活用、透明性のあるコミュニケーション、スキル習得の支援を実践することで、他部門における標準が形成され、企業全体の変革も加速します。
まとめ
AI導入には大きな可能性がありますが、成功を決めるのはテクノロジーだけではありません。必要なのは、人を中心に据えたアプローチです。
組織文化・スキル・戦略を統合し、透明なコミュニケーション、継続的な学習、失敗を恐れず試せる環境を整える企業こそが、真の意味で変革を実現します。従業員の主体性を支え、オープンなリーダーシップを発揮し、体系的なスキル開発に投資することで、企業は従業員の不安を減らし、AIの価値を持続的に引き出すことができます。
エージェント型AIの時代においても、変革の中心に人を置くことが最も大きな差別化要因になります。そしてHRこそが、その変革を先頭で導く旗振り役となるべき存在です。

