見落としがちな「入社直後の経験」
前回まで、エンゲージメントやコンディションといった「従業員の状態」を、サーベイデータからどう捉えるかを見てきました。こうした取り組みによって、組織や個人の状態は以前よりもずっと見えやすくなってきています。
ただ、実際に見えているのはあくまで結果に過ぎません。「エンゲージメントが低い」「コンディションが悪い」といったこと自体は分かっても、なぜそうなったのかまではなかなか追いきれていない企業も多いのではないでしょうか。
その背景を考えるにあたって、意外と見落とされがちなのが入社直後の経験です。たとえば、配属初日に誰に何を聞けばよいのか分からないまま時間が過ぎてしまったり、入社後の数週間で十分なサポートが得られなかったりすると、その後のエンゲージメントやコンディションに影響が出てしまうことは容易に想像できると思います。
一方で、この入社直後のプロセスについては、きちんとデータが取れていない企業も多く、結果として十分に可視化できていないという実態があります。
オンボーディングの本来の目的
オンボーディングという言葉は、人事の現場ではすっかり一般的になってきました。とはいえその捉え方は、人や組織によって異なる印象です。入社時の研修やオリエンテーション施策のことを指している、という解釈もまだ多いように感じます。
個人的には、この捉え方では少し足りないと思っています。それは、オンボーディングの本来の目的が、新しく組織に加わった人が、その職場で期待されている役割を無理なく果たせる状態になることだからです。
しかも、この状態に至るまでにはそれなりに時間がかかります。配属されてすぐにすべてを理解できるわけではなく、実務を通じて「自分は何を求められているのか」(いわゆる期待役割)を少しずつ掴んでいく必要があります。またそれと同時に、業務に必要なスキルを身に付けたり、周囲との関係性を築いたり、その企業や組織ならではの仕事の進め方に慣れたりすることも重要です。こうした一連の流れは、数日間の研修だけでカバーしきれるものではありません。
実際には、配属現場で期待役割の認識がずれたまま業務が進んでしまうケースがよくあります。本人は「これで問題なくできている」と思っていても、上司からすると「まだ一人前ではない」と感じている、といったすれ違いです。このズレは日々の業務の中では見えにくく、評価のタイミングになって初めて表に出てきます。
こうした行き違いが起きると、本人としては「聞いていた話と違う」と感じてしまい、その結果として仕事の納得感や組織への信頼感を失い、仕事への向き合い方が変わってしまうこともあります。一度そうなってしまうと、後から関係を立て直すのは容易ではありません。
サーベイで見えてくるエンゲージメントやコンディションは、あくまで結果として現れるものです。ただ、その背景には必ずそこに至るまでの過程があり、その中でもオンボーディングはかなり重要な位置を占めています。
そのため、オンボーディングをただの施策として切り出すのではなく、一定期間をかけて状態を見ながら調整していくものとして捉えたほうが、実情には合いそうです。

