「人は減る、でも物流は止められない」 “人が増えない前提”で変革に挑むギオンの人事DX
ビジネスモデルの転換が急務。「データ経営」4つのアプローチ
労働力は減少するが、社会インフラである物流を止めるわけにはいかない。この大きな矛盾に対し、須藤氏は「生産性を上げる」「機械化する」「外国人人材を活用する」「データで最適化する」という4つのアプローチを同時に進めることが不可欠であると提示した。
これらを実現するための基盤となるのが、社内に散在するさまざまな情報を統合する「データ経営」である。これまで、多くの企業では人事部門が人事データを、現場が生産性や事故データを、そして経営陣が売上や利益を別々に管理する傾向があった。しかし、これらのデータを一体化させることで初めて、業績向上につながる本質的な課題が見えてくるのだと須藤氏は力説した。
「人事データだけで外国人人材の定着率はわかりませんし、研修履歴だけを見ても誰を教育すれば事故率が減るのかはわかりません。なぜその拠点で利益が出ているのかを知るには、人員構成、生産性、教育、管理職のマネジメント力など、さまざまなデータを連携させる必要があります」(須藤氏)
2030年に向けて物流危機を乗り越えるためには、単なる人手不足ではなく、人が増えることを前提とした過去の経営モデルから、人が増えないことを前提とした経営モデルへと転換できるかどうかにかかっている。その転換を支えるのがDXであり、データから次に取り組むべき課題を見つけて、必要に応じて人材育成を担う管理部門の役割が極めて重要になるのだと須藤氏はまとめた。
「会社の未来がどう変わるのか」 経営陣にシステム導入の価値を感じてもらうために
後半は、ギオンの渋谷氏が加わり、SmartHRの松栄友希氏のファシリテートのもとで人事システム導入のリアルな実態についてインタビュートークが行われた。
最初の質問として、松栄氏が守りの労務から攻めのタレントマネジメントへと移行する際の優先順位について尋ねると、須藤氏はまずペーパーレス化と人事データの一元化から着手したと明かした。物流業界は現場の従業員にデバイスが貸与されていないことが多く、紙ベースでのやり取りが主流であったため、最初は土台となるデータ整備を優先し、その後サーベイや人事評価へと展開していったという。
松栄 友希(まつばえ ゆき)氏
株式会社SmartHR タレントマネジメント事業本部 事業本部長
デザイナー、マーケターなど多様な職種を経てProduct Managerに。「転職ドラフト」やECなど様々なプロダクトの立ち上げ、グロースを担当。XTechグループで創業期からの会社立ち上げも経験。2022年12月に株式会社SmartHR入社。タレントマネジメント領域を担当。日本CPO協会理事。
また、大規模な人事システムの導入にあたり、経営陣からどのように承認を得たのかという問いに対し、須藤氏はシステム投資によって会社の未来がどう変わるかを3つの視点から説明したと語った。
1つ目は業務時間削減によるコスト削減と、創出された時間を採用や人材育成などの高付加価値業務へ振り向けること。2つ目は属人化やヒューマンエラーによる労務リスクの削減。そして3つ目が、経営判断のスピードと質を上げるという「経営の価値」の創出である。
「次の管理職候補は誰なのか、今どういう人材が活躍しているのか、どこの拠点が離職率が高いのか。こうした情報を必要なときに経営層にすぐに見せられる状態にする。金額の概算は難しいけれど、経営判断のスピードや質を上げることには明確な価値があると感じました」(須藤氏)
また、須藤氏は「やらなかったらどうなるかを考えることもすごく大事だった」と振り返る。人手が足りなくなる物流業界において、仕組みで会社を成長させていかなければならない中、この投資によって会社の何が変わるのかを経営に伝えることが重要だったという。
次に松栄氏が「タレントマネジメントシステムは導入後の運用も大変だが、どのような工夫を行っているのか」と、人事システムの運用を主導した渋谷氏に尋ねた。
「従業員がいつでも開くツールにならないと、使ってもらえず、人事の自己満足になってしまいます。そこで、これまで紙のみで配布していた年3回の社内報をシステム上でも配信したり、社内報のコンパクト版として毎月配信して頻度を増やしたりしています。また、会社がスポンサーをやっているスポーツチームのチケット抽選をシステムで流すなど、『システムを見るとうれしいことがある』と思ってもらえるような接点を増やす取り組みを始めました」(渋谷氏)
渋谷 千尋(しぶや ちひろ)氏
株式会社ギオン 管理本部 人事部 部長
IT・保険業界などで人事業務に従事し、採用・労務・人材育成・人事企画など幅広い領域を経験。2024年7月に入社。人事部長の補佐役として、人事部全体の運営や各施策の推進を担う。組織課題の改善やエンゲージメント向上施策に取り組み、2026年4月より現職。
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- この記事の著者
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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