中村 亮一(なかむら りょういち)氏
株式会社サイダス プロダクトソリューション本部 本部長
2004年に日立製作所へ人事担当として入社し、採用・教育・労務・ダイバーシティと人事領域の業務に幅広く従事。2017年にPeople Analytics専門の部署を立ち上げ、データ分析に携わり、本分野での事業立ち上げ。2018年にソフトバンクへ入社し、同社人事部門においてHRテック、People Analyticsの企画チームのマネジメントに従事。2020年HRTechスタートアップBtoAの事業企画として経営に参画。2021年NECの中途採用マネージャとして入社しダイレクトチームの立ち上げ、その後ピープルアナリティクス専門チームのマネジメントを担当。2022年7月より株式会社サイダス 執行役員に就任。
「柳モデル」によって人的資本経営が財務指標に与える影響を立証
「ESG投資」の一つである人的資本。非財務である「人」そのものを経営資源と捉えることで、その取り組みや成果が「企業価値」となり投資判断の材料とされている。それは日本に限った話ではない。世界においても投資対象がモノやカネなどの有形資産から、人という無形資産へとシフトしているのだ。
実際、人的資本への投資が企業の財務指標に与える影響はどれくらいなのだろうか。中村氏は製薬大手エーザイのCFO柳良平氏による「柳モデル」を例に挙げ、ESG投資と企業価値の関連性を説明した。
「『柳モデル』の分析によれば、部長級以上の女性管理職を1%増やすと、7年後のPBR(株化純資産倍率)は3.3%向上し、従業員1人あたりの研修日数を1%増やすと、5年後のPBRが7.24%向上すると言われています。つまり、人件費や研修費は経費ではなく投資として必要だということ。実際、アップル社ではiPhoneのデザイナーが退任した際に株価が急落したり、在宅勤務を続けた人たちがオフィス復帰を拒否して退職につながったりと、人への投資が実際の業績にも大きな影響を与えていることは明らかになっています」(中村氏)
そういった人的資本経営や人的資本情報開示の流れは今に始まったものでない。リーマンショック前までは金融資産や売上など企業が保有する財務資産の価値に投資がされていたが、2009年頃から次第に非財務資本への流れに変わってきた。ところが当時は、人の情報を扱うリスクや周りからの反発でデータの開示までには至らなかったという。
その後、人的資本情報開示が本格化したのが2018年12月。国際標準化機構(ISO)から人的資本のレポートガイドライン「ISO 30414」が出版され、それを受けて2020年8月に米国証券取引委員会が上場企業に対して、「ISO 30414」に基づいて人的資本の情報開示を義務づけると公表したのだ。
日本では2023年から上場企業を中心に、有価証券報告書内で人的資本に関する開示が始まるが、開示についての詳細はまだ発表されていない。だが、現在投資家に対して公表すべき19項目(人材育成・多様性・健康安全・労働慣行)が開示例として出されている。次のセクションでは「ISO 30414」と「国内19項目」について見ていきたい。