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イベントレポート《海外》| HR World Summit 2026 #3

組織変革はなぜ頓挫するのか Cultureを“戦略”として捉える企業だけが前に進める理由

佐藤 邦彦[著]

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変革の組織文化を戦略的に実装する

 通信大手Vodafoneグループで、南アフリカの事業会社であるVodacomが直面していたのは、成熟市場における成長鈍化だけではありませんでした。保守的で官僚的な“オールドスクール”な文化が、変革を阻む壁になっていたのです。しかも問題は、単に文化が古いということではありません。社員が自分のキャリアや役割にオーナーシップを持ちにくく、「変えるのは誰か別の人」という空気が漂っていたことにありました。

 変革がうまく進まない組織では、現場が受け身のままでいることが少なくありません。Vodacomが優れていたのは、その受け身を責めるのではなく、主体性が引き出されるように組織文化を再設計しようと捉えた点です。

 同社のExecutive Director HRであるンジャブロ・マシゴ氏は、AIによって事業構造を根本的に変えていく組織変革プロジェクトにおいて、3つの施策が成功の鍵(途中経過ではあるが、確実に組織がポジティブに変化している状態)であると述べています。

VODACOM South AfricaのExecutive Director HR ンジャブロ・マシゴ氏
Vodacom South AfricaのExecutive Director HR ンジャブロ・マシゴ氏

 1つ目は「Fireflies(蛍)」と呼ばれるチェンジエージェントの仕組みです。組織のさまざまな階層に、古い慣習へ異議を唱え、相互フィードバックを促す役割を埋め込んでいく。手挙げを基本としつつ、信頼できる次世代リーダーに声をかけながら、蛍という変革の光を灯していきます。

 これは単なる社内アンバサダー制度ではありません。変革をトップのメッセージで終わらせず、現場のなかに変化の回路を意図的につくる発想です。多くの企業では、変革シナリオを本部が設計し、現場へ“浸透”させようという発想になりがちです。しかしVodacomは、現場の中に火種を分散させることで、変革の旗手を増やしています。現場を巻き込んでいるのではなく、感情を起点に現場が動き出す構造そのものをつくっているのです。

 2つ目は「Try and Fail(挑戦による失敗)」を表彰していたことです。失敗しないことではなく、試してみたこと自体を評価する。この発想はシンプルに見えますが、実際に仕組みとして全社展開するのは容易ではありません。多くの組織では、口では挑戦を称えながらも、評価の場面では無難な成果が高評価となりやすいものです。

 Vodacomは“失敗を恐れずに挑戦しよう”という掛け声を掛け声では終わらせず、評価制度を変えるという行動で示していました。AIの活用方法に正解がない中で、主体的に目の前の仕事を変えていこうという勇気を称え、どういう人が評価されるのかという力学をつくる。成熟産業特有の官僚的カルチャーに対して、挑戦しても関係が壊れず、評価でも不利にならない。そう実感できる状態をつくることで、変革のエンジンを動かしていたのです。

 3つ目は「Ultimate Personalization(究極の個別最適)」という発想です。女性社員向けの専任コーチング、若手向けの柔軟な報酬パッケージ、障害のある社員へのサポートインフラなど、社員1人ひとりとじっくり対話する中で知ることができた会社の求心力に関する課題に対し、一律ではなく、個々の障壁に応じた支援の形を実践していました

 たとえば、女性は十分な確信が持てないと昇進機会に手を挙げにくいという「Confidence Gap」というものがあります。ここに対して専任のコーチをつけることで、ガラスの天井を割り、女性の変革リーダーを後押ししたのです。

 ここで素晴らしいのは、組織変革プロジェクトを“全員に同じことを求める運動”にしていない点です。公平さを理由に一律施策へ寄りがちな企業は多いですが、実際には人によって感じている障壁も必要な支えも異なるもの。同氏はその違いに着目し、固定的かつ一律な仕組みそのものを変えることが、Vodacomの変革のコンセプトになりうると見立て、組織文化を戦略的に変えるストーリーをプロジェクトチーム全員で共有しながら走っていると述べました。

 Vodacomの取り組みからは、先ほど挙げた3つの失敗要因を正面から乗り越えようとしていたことが分かります。Firefliesや個別支援によって、現場の主体性を引き出す。Try and Failや対話への投資によって、組織文化そのものを変革の結果ではなく、変革を進めるエンジンに変える。そして、一律施策に逃げず、時間も手間もかかるやり方をあえて選ぶことで、変革によるコストを引き受けた設計にする。変革が停滞する理由を理解したうえで、その逆を丁寧に設計し実行できていることは、示唆に富む事例ではないでしょうか。

VODACOMの事例に真剣に耳を傾ける会場の参加者たち
Vodacomの事例に真剣に耳を傾ける会場の参加者たち

人が動き出す条件を設計する。それがAI時代の人事である

 今回は「組織変革」というテーマで、AI時代における組織変革の要諦を考察しました。変革が頓挫するのは、その必要性が理解されていないからではありません。人の主体性を引き出せず、文化を戦略として扱わず、実装に必要なコストを惜しんでいるからです。

 組織を変えるとは、制度や仕組みを変えることではなく、人が動き出す条件を変えることでもある。その条件を設計し、守り、推進役を担うのが、これからの人事なのだと思います。

 次回は、組織変革の中でも、AIネイティブな組織へのトランジションやデータ活用の具体的方法論について模索していきたいと思います。

HR World Summit 2026公式情報 https://hrworldsummit.com/

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この記事の著者

佐藤 邦彦(サトウ クニヒコ)

HumanDriven株式会社 代表取締役 CEO

早稲田大学政治経済学部卒。2008年リクルートに新卒入社。HR領域で営業、企画、マネジメントを経験。2015年からはリクルートホールディングスにてシェアリングエコノミーの事業開発、働き方変革推進のプロジェクトリーダーを務める。2020年にココナラへ参画...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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