ハイアリングマネージャー……などと、あたりまえのことのように書いてしまいましたが、そもそもハイアリングマネージャーってなんでしょう? そう、この取材では、外資系ならではのワードが続出します。IT業界の宿命というか、日本語の会話の際にカタカナ英語を多用すると、つい「なにかっこつけて! 日本語で言えばいいじゃない!」などと思ってしまいがちですが、カタカナ英語でしか表現しようがないニュアンスというものがあるのも事実です。要は使い方です。斎藤さんのお話の中では、さまざまなコンテクストでクラクラするような外資系ワードが頻出します。全部読むと少し外資系の世界観がわかってくるかもしれません。
クロスグループでコラボレーションしてインパクトをマキシマイズできるか?
小泉 外資系って独特の雰囲気がありますよね。さらにマイクロソフトって大企業じゃないですか。そういうところの採用っていうのはいったいどういうことになっているんだろうと気になっていました。斎藤さんには、これまでマイクロソフトの製品やサービスの話をうかがってきました。そうした取材を通じて斎藤さんのユニークなお人柄は存じ上げていたのですが、なかなか製品以外の話をする機会がなく……。今日は趣を変えて人材の話ということで。まずは斎藤さんの採用担当者としてのご経験の歴史をざっと教えていただけますか。
斎藤 そうですね、もともとかなり古いですね。日本マイクロソフトの採用には、ループインタビューという仕組みがあって。
小泉 ループインタビュー。
斎藤 こういう言葉を一般的に使うかわからないんですけど、採用をする人と、一緒に仕事をする人、どんな職責でも、役職者じゃなくても、一緒に仕事をするであろう人をインタビューループに入ってもらってですね、その人との相性を見る。そういう仕組みが、昔からありました。で、僕自身もかなり前からそういったインタビューループに入る機会がありました。
小泉 それは、人事の専門の方と、現場のリーダーの人がそれぞれ面接するっていうことですか?
斎藤 はい、最初に人事担当者と面接を基本的に経る形にはなりますが、ループインタビューは、その人が採用されたら一緒に仕事をする人間で構成されます。すべてのインタビューは基本的に個人面談なんです。順番にシリアルにやっていくんですけど、途中で「あなたはアウト」とかはないんですよ。人事担当者との面談が終了すると、たいてい5人とか6人とかそれぞれ、そのループインタビューに入っている全員と会う。最終的に決めるのはハイアリングマネージャーといって、そのポジションの直属の上司になる人が決済することがほとんどです。でも、たとえループの全員がノーって言っても、どうしてもハイアリングマネージャーが採用したいポテンシャルのある人材がいる場合は、さらにYesといってもらえるループインタビューを追加するなど柔軟性のある仕組みです(編集部注:ポジションによって異なるそうです)。
小泉 一緒に働くであろう人と、直属の上司=ハイアリングマネージャーによる個別のループインタビューを行うということですね。
斎藤 僕は今、ハイアリングマネージャーになって5年経つんですけど、それよりも前からループインタビューにはずっと関わってきました。2008年くらいからかな。ちょっとこの取材があったんで、直近2年間のインタビューの履歴があったんで数えてみたんですけど、月2回くらいは必ずインタビューしている。で、2年くらい前から、OneNote上にずっとインタビューの履歴を残しているので、それを数えてみたら月に2人、くらい。2年間で40とか50はやっている。そんな歴史です。
小泉 なるほど。基本的な事項から確認させてください。まず、ハイアリングマネージャーっていうのはいったい……?
斎藤 ごめんなさいね、そもそもそこが伝わっていなかった(笑)。まず採用枠のポジションがあります、で、採用する人材のポジションのマネージャーになるひとをハイアリングマネージャーと呼んでいて。なので、僕みたいな人間です。はい。
小泉 斎藤さんの担当する部署をもう少し詳しく教えてください。
斎藤 例によってカタカナなんですけど、主にはMicrosoft Azureというクラウド製品の責任を持っている部署です。僕の名刺には、クラウドプラットフォーム製品マーケティングって書いてあります。クラウドプラットフォームにはWindows Serverなどのオンプレミス製品もインフラとして含まれるんですけど、クラウドの拡張版であるハイブリッドクラウドを実現するAzure Stackなんかもやったりしなきゃいけないので、クラウドプラットフォーム製品マーケティング部となっている。会社の人からしてみたら、僕は「Azureの人」っていう認識なので、Azureに関わるロール(役職)。プリセールスだろうが、ポストセールスだろうが、僕たちと同じマーケティングロールだとか、けっこういろいろなインタビューループに呼ばれることが多いですね。
小泉 外資系のIT企業だな~っていう、そういう特徴的なことってありますか。役員面談とかってありますか?
斎藤 ポジションによりますね。私のグループではまったくないです。なので、この前の翔泳社さんの話を読んで、やっぱり階段があって、徐々に1次面接、2次面接、3次面接みたいな、そういうのがあるんだなって、逆に新鮮でした。
小泉 ワークスさんも、やっぱり個別なんですけど、最終的に役員の方と話す機会があった。役員面談がない場合があるというのは、特徴的かもしれないですね。
斎藤 見ている観点が全然違うと思います、やっぱり。
小泉 ほとんど皆さん、転職組というイメージがあるんですけど、新卒も採っています?
斎藤 新卒も採用しています。年に20~30人くらいは。
小泉 あ、思ったより少ない……やっぱりほとんどが中途。
斎藤 ほぼ中途ですね。
小泉 そうすると、面接の仕方っていうのは、これまでの仕事について聞くことがメインになるんですか?
斎藤 一応、聞かなきゃいけないポイントみたいなものはある程度あります。評価軸が人それぞれだとフェアに評価できないので、評価軸は一応定まっているんですけど、だからその方の過去の実績はもちろんなんですけど、僕はもっと別に重視している軸があったりします。
小泉 それはどんな軸なんですか?
斎藤 弊社のもともとの評価軸ってインパクトベースっていって。
小泉 インパクトベース?
斎藤 ええ。これは外資系的な言葉で言うとクロスグループでコラボレーションしてインパクトをマキシマイズしたかっていう……。
小泉 ええと……ちょっと待ってください(笑)。
斎藤 ルー大柴みたいですみません(笑)。要は1+1を3とか5にできるか、最大化できるかってことなんですよね。こういう能力を持っているかどうかっていうことはすごく見極めて。
小泉 こういう能力というのは、クロス……なんでしたっけ?
斎藤 もう一度言いますか?
小泉 お願いします。
斎藤 クロスグループでコラボレーションしてインパクトをマキシマイズできるか。
小泉 クロスグループでコラボレーションしてインパクトをマキシマイズできるか。
斎藤 クロスグループ、すなわち横断的な組織やチームで連携してインパクトをマキシマイズ(最大化)できたかが、社員の評価軸なんですね。その評価が給与の査定にもつながります。
小泉 インパクトをマキシマイズですね、なるほどじゃないけど、なるほどですね(笑)。
斎藤 ふふふ(笑)。我々としては、個人、ひとりひとりを評価するのはすごく難しくなってきているんですよ。なので、パフォーマンスベースって外資系でよく言われると思うんですけど。
小泉 パフォーマンスベースはなんとなくわかります。いわゆる年功序列ではなくて、成果報酬型ってやつですよね。
斎藤 その成果報酬の評価軸が「インパクト」なんです。なので、ある人間が持つ能力が100だとした時に、この能力を200までマキシマイズして発揮したかどうかが評価軸なんです。
小泉 それは、採用後の評価ですよね。採用時点でもその観点で見るんですか?
斎藤 見ます。能力っていうか。
小泉 それは、これまでマキシマイズしてきたかどうかを見るんですか?それとも、今後マキシマイズしそうかどうかを見るんですか?
斎藤 もしくは、 そういう能力を根底に有しているかどうか。それを45分の中で見極めていくので、けっこう大変です。
小泉 そうですよね。だってこれどんな質問をしたら、マキシマイズしそうかどうかわかるのか……「あなた、マキシマイズしてますか?」って聞くわけにもいかないし。
斎藤 自分のケースでは、インディヴィジュアル(個人)の仕事が好きか、チームワークでの仕事が好きかを聞くんですね。そうすると、過去の実績で彼が何をやってきたのかがだいたいわかるので、そこは最後のキラークエスチョンですね。最初に言っちゃうと。
小泉 その問いに対する正解としては、「チームのほうが好き」っていうほうがいいんですか?
斎藤 ええ、それはもう最低限のラインですよね。
小泉 私、今の時点で落ちた気がします(笑)。