本レポートの前編はこちらから。
採用の場で入社後の業務をシミュレーションする
先ほど(前編)言いましたように、採用というのは、評価・育成・活用が形づくるサイクルのうち、評価からスタートするというところがあります。ここから話を人材の評価、つまり、すでに社内にいる人材の評価から採用へと話を展開していきます。
ここでポイントとなるのは、「社内の人事評価と採用時の評価というのは基本的には同じもの」だということです。皆さん、おそらく当たり前と思われるでしょうけど、これをきちっと理解しておく必要があります。
採用のプロセスには、書類選考、履歴書なりCV(英文履歴書)があり、面接があり、リファレンスチェックがあると思うんですけれど、「そもそもこれらは何のために行うんだろう」というふうに考えてみたいと思います。なぜか分かりますかね?
例えば、米AUTOMATTICという会社です。WordPress.comというCMS(コンテンツ管理システム)であるWordPressをホスティングする企業として有名ですが、基本的にオフィスを持たずリモートワークしていることでも有名です。またAUTOMATTICでは、面接をパスした後、本当にその社員を採用するかどうかを判断する前に、契約ベースで一緒に働く機会を設けています。
同様の取り組みをやっている会社は、実は日本のスタートアップにもあります。もちろん、転職希望者が兼業を認めている会社に勤めていない限り難しいですけれど、最近は認めている会社が増えてきているということもあり、「3日でも1日でもいいですし、仕事が終わった後の夜だけでもいいので、ちょっと一緒に仕事をしてみませんか」と声をかけているところもあります。
なぜ、こういったことを行うのかというと、採用プロセスを、採用候補者が入社した後の状況をシミュレーションする場ととらえているからであります。
採用プロセスを企業側から見れば、「その人材が自社に合っているかどうか、マッチしているかどうかを見るもの」になります。一方、候補者側から見た時には、「自分が働く場としてその転職先が合っているかどうか、マッチしているかを見るもの」。どちらから見ても、ミスマッチを防ぐためのものです。言い換えると、入社した後、その候補者がどのように働いていくか、本当にその職場で自分の実力を発揮できるかをシミュレーションする場、というふうに考えることができるわけです。
日本ではコーディングテスト、つまり実際にプログラマにある題材を出して、解答をホワイトボードに書いてもらい、それをベースに面接するというやり方をとっている会社はまだ少ないですが、欧米においては、特にシリコンバレーのハイテク企業では一般的です。
コーディングテストでは、凝った問題よりも簡単なアルゴリズムの組み合わせで解ける問題を出すことも多くあります。たとえば、1~10までの自然数が並んでおり、それを降順に並べ替えてくださいと。アルゴリズムの基礎中の基礎であるいわゆるソートですが、「プログラミング言語は何でもいいので、ホワイトボードに書いてください」と言って内容も説明してもらうんですね。実際にはこんな簡単なものではありませんが、あえて分かりやすく言うとこういうことです。
コーディングテストは何のためにやるかというと、今の例ならば、その人がソートのアルゴリズムを理解していて正しいプログラムを書けるかだけが目的ではなく、その人がその課題に対してどのような思考プロセスを経ているか、かつどうやって正解に辿り着いていくかという過程を、対話を通じて見ているんです。
これは、その人がプログラマーとして入社した場合に、社内で日々起きるコミュニケーションと同じものです。コードレビューはその過程ですし、その前の設計段階のレビューや相談というのはまさに現場で行われるんですね。
今のソフトウェア開発において、1人の天才が何日間か閉じこもって素晴らしいコードを書き、それがそのまま出ていくということはほとんどありません。チーム開発です。ですので、そこでいかにコミュニケーションを通じて正解に辿り着いていくかというところを見る、まさにシミュレーションの場なんです。
同じようなことはコーディングクイズだけではなく他も同じです。ですから、面接にしろ何にしろ、すべてシミュレーションの場だと考えてください。シミュレーションを行うためには、社内で「どういうようなエンジニアを理想と考えているか、どういう人事評価を行っているか」という評価基準がしっかり定まっている必要がある。それを前提として、「それぞれの項目をどうシミュレーションしていくか」を採用プロセスの中でも考えていく必要があるわけです。