人事を経営のセンターピンにするために
――これまで人材サービス業界において、企業の採用支援サービスを主に手がけて来られた御社が、なぜHRサービスの開発に踏み切られたのでしょうか。
今まで経営資源の中で「モノ・カネ」が重視されてきた時代から、「ヒト・テクノロジー」が重視される時代へと変化する中で、人事に求められる役割も変わってきていると感じています。
弊社も含め、人材サービスでは業界全体の動きとして、これまで“採用”というヒトの出入りの“入口”だけを支援してきました。ところが近年、介護や飲食店をはじめとして「どれだけお金をかけて、熱心に取り組んでも、ヒトが集まらない」業界が出てきました。
本来、人材サービスは採用でヒトをアサインするだけではなく、その後の定着や活性化まで支援するべきなのですが、弊社も含め、採用という安易なところにサービスを集中させてしまっていたのだと思います。企業側でも同様の傾向はあって、「離職者が出たら、追加で採用すればいい」と。
しかし、少子高齢化によって顕著に人材の需給バランスが崩れている中で、入口をお手伝いするだけの人材サービスには限界が近づいていることも肌で感じています。このままでは、自分たちの介在価値が、徐々に落ちてしまう。そんな危機感が募って3〜4年前に「jinjer」の開発に踏み切りました。
――これまでも採用後のケアについて、お客様からの要望はあったのですか?
新卒採用であれば「初期の研修もお願いしたい」とか、「インターンシップのような形で、ミスマッチを減らしてほしい」とか。そういった要望が増えてきたのはここ数年でしょうね。これまでも課題としてはお持ちだったのかもしれませんが、お金を使ってでも解決したいとニーズが顕在化してきたのは、最近になってからだと思います。
日本の人材サービスが採用のアウトソーサーとして機能してきたことで、人事がオペレーター化してしまった歴史がありますよね。高度経済成長の時代には、それが正しい選択だったのだと思いますが、時代が変わり、人事の役割が大きくなっているにもかかわらず、なかなか経営のセンターピンになりきれていないという事象を、「jinjer」を通じて変えていきたいという思いが強くあります。
――逆に、これまで企業の人事部が行ってきた採用後のアフターケアを、今はもうできなくなってしまったということでしょうか?
一つ考えられる理由として、年功序列の終身雇用という日本の商慣行が、最高の人事戦略として機能していた時代があったからではないかと考えています。それがあるだけで、離職の抑止力にもなり、意欲高く働けていたのではないかと。
それが、今や転職が当たり前になった中で、今の時代に適合できている企業と、これまでのやり方から変えられない企業との間には、大きな格差が広がっているのだと思います。