インターナルコミュニケーションはなぜ重要なのか
曽根圭輔氏(以下、曽根):コロナ禍以降、リモートワークが推進されるようになった結果、社内の従業員どうしが顔を合わせる機会が減ってきています。こうした状況下で、社内コミュニケーション(インターナルコミュニケーション)は非常に重要性を増してきています。
リモートワークによって生じている課題を整理してみましょう。リモートワークによって、リアル(オフライン)でのコミュニケーションの絶対量は大きく減少しています。これによって従業員の間に「会社のアイデンティティ」を浸透させ、それを共有することが難しくなっていると考えられます。
また、コロナ禍によって多くの企業が経営的危機に直面していますが、こうした危機的状況においてこそ、社内のエンゲージメントを高めていくことが重要です。オフラインでのコミュニケーション機会が減少している中で、いかにエンゲージメントを強化していけばよいのでしょうか。こうした問題意識に基づいて、インターナルコミュニケーションに取り組まれているお二人のお話を聞いていきたいと思います。
丸山鉄臣氏(以下、丸山):資生堂 グローバル広報部でインターナルコミュニケーションを担当しています。資生堂は国内外に4万6000人の従業員が在籍し、One Shiseidoの実現に向けて活動しています。
大野耕平氏(以下、大野):動画配信プラットフォームを提供しているブライトコーブという会社で、Marketing Managerを務めています。企業における社内での動画活用に関する問い合わせやお仕事が増えているということもあり、資生堂 丸山さん含めた大企業の広報部の方とインターナルコミュニケーション研究会を定期的に開催しています。
曽根:では、まずは大野さんから「なぜインターナルコミュニケーションが必要なのか」という点からお話しいただきましょう。
大野:「インターナルコミュニケーション」という言葉を初めて聞くという方も多いかもしれません。現代マーケティングの第一人者として知られるフィリップ・コトラー氏が、著書『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』(丸善出版刊)という書籍でこう述べています。
「エクスターナルマーケティングの前にまず、インターナルマーケティングが必要である」
コトラー氏の表現では「インターナルマーケティング」となっていますが、ここではインターナルコミュニケーションと同等のものとして話を進めます。
「マーケティング」という言葉は、通常は上図でいうエクスターナルマーケティング(企業から顧客に対して行うもの)を指します。また、インタラクティブマーケティングといえば、店頭を訪れた顧客と従業員の間で行われるものなどを指します。
これらに対して、企業から従業員に行うマーケティングのことをインターナルマーケティングといいます。それぞれのマーケティングが適切に機能することが重要だとコトラー氏は指摘しています。
つまり、従業員に対するマーケティング活動(インターナルマーケティング)によって従業員が経営方針を理解し、帰属意識を高めることが、企業の提供する製品・サービス品質の向上につながり、結果的には顧客満足度が高まるというわけです。
では、どうすれば従業員の帰属意識を向上させられるのでしょうか。給与や福利厚生なども一つの手段ですが、実は「会社の経営方針や理念に、従業員が共感する」ことが最も重要なのです。