従業員の価値観が多様化していることを再認識する
エンゲージメントが注目されるようになってきた昨今、同じようによく使われるキーワードとして「個」がある。「全体一律ではなく『個』を生かす」「『個』の活躍」「『個』の自律」といった具合である。これらはいずれも、一人ひとりのエンゲージメントや生産性を高め、かつ多様な能力を最大限に発揮してもらうことで、企業の競争力を高めていこう、という考え方の下に使われている。つまり、個人に注目が集まっていることと、エンゲージメントの重要性が叫ばれていることは、いずれも近しい意図を持っているといってよいだろう。
近年ではヤフーが個人の「才能と情熱を解き放つ」といったフレーズを発信して話題になった。また、かつての名経営者、アンディ・グローヴは「個人の意欲と能力を最大化する」ことの重要性を語っていた。これらは最も端的に、この潮流を表した言葉である。
どうしてこのような論調が主流となってきたのか。それは、時代が移り変わって「かつてのやり方」では通用しなくなってきたから、という一言に尽きるだろう。ここでいう「かつてのやり方」には様々な内容が含まれる。例えば、終身雇用、定期昇給、年次が上がることで望める昇進・昇格、数年は現場で下積みというキャリアステップなどが当たる。これらが総称されて「かつてのやり方」と括られていることが多い。
しかし、このような“段階的なインセンティブ”は、昨今では従業員のエンゲージメント向上にまるで寄与しなくなっている。それは「かつてのやり方」が対象としていた世代と、現在それに反目している世代では価値観が大きく異なる上、かつてと異なる世代と一括りにはできないくらい、従業員の価値観や働き方が多様化しているからである。
例えば、職場において「働くママ(ワーキングマザー)」の割合は増えていて、男性中心だったかつての仕事の進め方、職場のあり方はフィットしなくなっている。ワーキングマザー自身も多様で、決して一括りにはできない。キャリア志向が強い方も、そうではない方も、中くらいの方もいる。また、配偶者や親族から子育ての支援が得られる方とそうでない方では事情が全く異なる。それぞれの事情に合わせて職務や職場、制度を使いやすいようにデザインしていかなくては、結局何も機能しないことは自明である。
ワーキングマザーを例に挙げてみたが、ミレニアル世代・Z世代と呼ばれる最近の若手を例にとっても、その多様さは変わらない。置かれている状況や望む働き方、価値観が一人ひとり全く違うのだ。
こういった世代や対象からすると、旧来からあるキャリアステップやインセンティブは「シラケる」対象と映ってしまいやすい。だからこそ「かつてのやり方」を見直し、一人ひとりに沿った施策を講じていかないと、エンゲージメントは一向に高まらない。これが昨今の潮流の根底である。