1. 事件の概要
ある会社で勤務していた原告(以下「原告」)が、退職強要で精神的苦痛を被ったとして不法行為に基づく慰謝料の支払いを求めるとともに、休職期間満了での退職が無効であるとして、労働契約上の地位確認などを求めた事件です。裁判では、会社の退職勧奨を違法と判断するとともに、休職期間の満了による退職を無効と判断しました。
事件の概要は以下のとおりです。
①平成19年3月~
<原告の入社と業務など>
原告は、平成19年3月1日入社し、医科学マーケティングカンパニーに所属し、メディカルコピーライターの業務を行っていました。また、原告は、裁量労働対象社員とされていました。
②平成20年7月~
<原告の体調悪化と休職>
平成20年7月頃、原告が部署の配置換えを希望したため、中堅・新規顧客の仕事を担当するチームに異勤しました。しかし、原告は、思考能力の低下した状態等が続いたため、平成21年3月、E医院の精神科を受診したところ、うつ病と診断されました。
同年4月頃、原告はチームの先輩にE医院を受診したことを報告しました。
同年8月中旬、原告は、薬を服用しながら仕事を続けていましたが、体調は回復せず、主治医から休職するよう指示され、同月17日から平成22年2月28日まで休職しました。
③平成22年3月~
<原告の復職と就業条件の変更>
原告は、医師から平成22年3月1日から復職可能と診断され、同日復職しました。ただ、うつ病の治療が継続中であったことから、就業条件について、勤務時間は午前10時から午後5時、休憩時間1時間、業務内容はメディカルコピーライターのアシスタント業務、賃金は休業前の75%とする旨の覚書を締結しました。
覚書には、原告の復職後1か月間の就業状態により2か月目以降の就業条件を見直す旨も記載されていましたが、実際のところ、就業条件が見直されることはありませんでした。
復帰当初は、アシスタント業務でしたが、徐々にそれにとどまらず、直接顧客との窓口対応業務も行っていました。
④平成23年5月~
<原告の就業条件が休職前に戻る>
原告は、平成23年5月31日、年俸更改のためCカンパニー長(以下「C」)と面談しました。その際、Cは「現状の勤務形態で年俸も現状維持」もしくは「契約社員となること」を提示しましたが、原告は納得しませんでした。
同年6月2日、原告は、再びCと面談し、Cから「給料を元に戻してほしいのであれば、他の社員と同様の条件でがんばっていくつもりはあるか」と尋ねられたため、原告は、それで頑張る旨を答え、休職前と同様の条件で契約することになりました。
⑤平成23年6月~
<原告が再び体調悪化>
原告は、平成23年6月以降、最初の休職前と同様の条件で勤務していましたが、多くの業務が割り振られるようになったため体調が悪化し、業務を処理できなくなりました。
そこで、原告は、同年7月5日、Bチームリーダー(以下「B」)に業務量の軽減を訴えました。これに対し、Bは、業務量調整の努力はするが、原告の責任は重い旨を述べました。
数日後、原告は、上記Bの訴えを聞いたCから、「今回のことはどういうことか、顧客に迷惑がかかるようなことであれば、解雇もあり得る」旨を言われ、これにより体調がさらに悪化しました。
原告は、朝・昼を問わず机に伏して寝ていることが多く、全社で30周年記念の神社祈願を行うときも、原告は、特に連絡することなく遅刻し、神社祈願に参加しませんでした。
同日、Bは原告と2人で話をし、なぜ契約更改時にリハビリ勤務や契約社員としての勤務を断ってコピーライターとしての裁量勤務したのか、無理しないように忠告したのに裁量勤務に復帰した以上、他のメンバーの手前リハビリ中でもない人をかばうことはできないと言ったはずである旨を述べました。
原告は申し訳ないと謝りました。その際、原告は、専門社員として働きたい旨を申し出ました。