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ニューノーマルの人財マネジメント――EXの向上とジョブ型マネジメントへの移行を支える仕組みとは

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 「ニューノーマル」という言葉は、コロナ禍への対応だけを指すのではない。経済や社会基盤の大きな変化に合わせて、それまでの「常識」にとらわれることなく、時代の波に適応していく姿勢そのものを表している。人財戦略も例外ではない。従来の定期・大量採用、一律教育を脱して、経営戦略と緊密に連動した人財採用・育成をどう進めていくのか。株式会社日立ソリューションズの伊藤直子氏は、HRzine Day 2021 Summerでのセッション「デジタル社会における人財マネジメント~一人ひとりがイキイキと働くための取り組み事例~」において、自社の取り組みを例に挙げながらその点を解説した。

伊藤 直子

伊藤 直子(いとう なおこ)氏
株式会社日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 主幹技師長 兼 人事総務本部 本部員
働き方改革エバンジェリスト
大学卒業後、1992年、株式会社日立中部ソフトウェア(現 株式会社日立ソリューションズ)に入社。ソフトウェア製品開発、ネットワーク・セキュリティSEを経て、2004年管理職へ。2015年から働き方改革のプロジェクトに入り、自社の改革推進とともに、自社での取り組みを生かして企業の働き方改革をITで支援する事業に携わっている。

経営戦略と人財戦略を両輪に企業価値の向上を図る

 冒頭、伊藤氏はニューノーマルにおける人財戦略をどのように考えるかについて、経済産業省のレポートをもとに説明した。これによれば、近年起きている大きな変化には「グローバル化」「デジタル化」「少子高齢化」などがあり、さらに昨年からはコロナ対応(ニューノーマル)という要素が加わったという。

 こうした大きな変化の中で、人的資本の価値を最大限に引き出せるかどうか。そのために必要な変化を自ら起こせる企業とそうでない企業の間には、埋めがたいほどの企業力の格差が生じるとレポートは指摘している。

 「こうした変化で何が変わるかというと、経営戦略としては、変化への対応力の必要性が加速していきます。一方、人財戦略としては、『人的資本は企業価値の源泉である』という考え方に基づき、経営戦略と緊密な関連を保ちながら、組織や個人の行動の変化を企業文化として定着させる努力が求められてきます。この両輪を最適なバランスで回すことにより、中長期的な企業価値の向上を図っていかなくてはなりません」(伊藤氏)

経営戦略と人財戦略の連携で中長期的な企業価値の向上をめざす
経営戦略と人財戦略の連携で中長期的な企業価値の向上をめざす
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 さらに伊藤氏は、人財戦略の何がどのように変化するかについて、次の6つのキーワードを挙げて説明した。

①人財マネジメントの目的 これまでは従業員や人財を「人的資源」と捉え、その資源を確保・消費していく「コスト」と考えていた。今後は人財を「人的資本」と考え、そこに積極的に投資して成長させ、企業の成長につなげていくようになる。
②アクション 人事を担う、いわゆるHR部門の人々の行動も大きく変わる。従来は人事制度や仕組みの運用・改善が主な業務だったが、これからは「企業価値の向上」を目的として、その実現に向けた制度やルール、教育の提供などを考えていかなくてはならない。
③イニシアチブ これまでの日本企業では、経営戦略の立案と人事部門の業務は、まったく別々のものと考えられていた。だが、これからは経営戦略と人事は成長の両輪として紐づけられるため、経営層が主体的に人財戦略にも関わっていくことになる。
④ベクトル・方向性 人財をどのような形で活かしていくのか、社外も含めたさまざまな立場の人々と積極的に対話していくことが求められる。
⑤個と組織の関係性 これまで会社と社員は「雇い・雇われる」相互依存の関係にあり、お互いの安定を確保してきた。今後は、社員が自律的に働き、会社は社員個々の力を活かしていくという関係に変わっていく。
⑥雇用コミュニティ 社内に人財を囲い込む雇用形態から、副業なども含めた多彩な雇用スタイルの下で、企業と人財が「選び・選ばれる」関係に変化していく。

 「こうした変化の下で新しい人財マネジメントの仕組みを作るには、組織側と従業員側のさまざまな情報を“見える化”し、そのマッチングによって適所適材の配置を実現することが必要です。そうした地道な取り組みによってこそ、個を認め、活かす組織文化が醸成されると、日立ソリューションズでは考えています」(伊藤氏)

全社対象のサーベイやデータ活用基盤の構築を推進中

 人財戦略における大きな変化に組織を挙げて対応していくために、日立グループでは新たな人財マネジメントの取り組みを推進している。そうした中で日立ソリューションズでは、2020年から2021年7月現在まで、すでに計5回の「労働環境実態サーベイ」と呼ばれるアンケート調査を実施してきた。これは「新常態での新しい働き方の確立に向け、現状の課題を把握する」ことを目的に、日立ソリューションズの全社員を対象に行われているもので、役員および出向受け入れ者までを含む、まさに会社ぐるみの調査だ。

 「これまでも日立グループでは、グループ30万人を対象に年1回サーベイを実施してきました。そうした下地があったところに、2020年度から日立ソリューションズでは全社員が原則在宅勤務になりました。そこで、今後も続いていくテレワークにおける働き方の課題や社員の不安などを抽出し、先手の対策を打っていく目的で、独自にサーベイを始めたのです」(伊藤氏)

 5回のサーベイを実施した結果を見ると、回を追ってテレワークを受け入れる社員が増えてきた一方で、定着するにつれ、他者とのコミュニケーションを希望する声が増えてきた。これに対して人事部門では、タテ(上位上長)・ヨコ(部門横断)・テーマ別のコミュニケーションの機会をつくり、オンラインでの雑談・相談をしやすい機会と雰囲気の醸成を行った。また、バーチャル組織でのウォーキングなど共通ゴールをもった活動を推奨する施策を行った。

テレワークへの移行を機に全社対象のサーベイ(アンケート)を実施
テレワークへの移行を機に全社対象のサーベイ(アンケート)を実施
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 もう一つの取り組みとして、伊藤氏は「EX(Employee Experience:従業員体験)向上のためのHRデータ活用」を挙げる。EXは最近HRの領域で話題のキーワードの一つになりつつあるが、「従業員体験=従業員が企業で働く中で得る、あらゆる経験や価値」を指している。

 「EXをより良くすることで従業員の満足度が向上すれば、仕事の効率や質が向上し、顧客体験が向上して継続的な利用や発注拡大につながります。その結果、従業員に顧客からの感謝や評価が寄せられ、EXがさらに向上する。このサイクルを回しながら、最終的に事業の成長・拡大につなげていきます」(伊藤氏)

 日立ソリューションズではその実践として、現在さまざまな業務プロセスから抽出されるデータをまとめて見える化し、活用する試みに取り組んでいる。これによって「採用・配置→人財の活用→評価や処遇→育成」のサイクルを確立していくのがねらいだ。

 「このサイクルをつなぐデータを共有することで、プロセス全体を俯瞰しながら人財戦略を立てていけるようになるのが目標です。現在は、その基盤となるデータベース構築とデータ蓄積に全力で取り組んでいます」(伊藤氏)

EX(従業員体験)の向上は、社員と組織の双方によい結果をもたらす
EX(従業員体験)の向上は、社員と組織の双方によい結果をもたらす
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全社対象のサーベイやデータ活用基盤の構築を推進中

 日立ソリューションズは、データ共有や活用の基盤づくりに加えて、人財マネジメントの考え方そのものも大きく変えていこうと考えている。具体的には、「メンバーシップ型マネジメント」から「ジョブ型マネジメント」への移行だと伊藤氏は語る。

 「これまで、日本企業のほとんどはメンバーシップ型マネジメントでした。これはまず人を採用して、それからどこに配属するかを決めていく。人に仕事を割り当てる、いわゆる『人基軸』の考え方です。一方、ジョブ型マネジメントは、まず仕事を定義して、そこに必要な人財を割り当てていく『仕事基軸』です。もちろん両者は大きく異なる考え方なので、移行にあたってはさまざまな仕組みを変更・刷新しなくてはなりませんが、会社の大きな流れとしては、ジョブ型に徐々にシフトしつつあります」(伊藤氏)

 この取り組みの下地になっているのは、日立グループ全体で共有しているジョブ型マネジメントの全体像だ。次の3つの段階を経て進んでいくという。

  • 会社が職務定義書を整備して職務の“見える化”を行う
  • 一方で従業員の情報の“見える化”を進める
  • 双方の情報を開示して健全な緊関係の下、双方向のコミュニケーションを実現する。

 「ジョブの内容を従業員から見て明確に定義し、理解できるようにする一方で、従業員側も、自分がやりたい仕事や保有しているスキル、経歴、さらには今後どのような形で自分が進んでいくのかを明らかにします。将来については転職の可能性も含めて情報をシェアすることで、人の流動性までも把握できる実効性の高いコミュニケーションが実現できます」(伊藤様)

 もちろん、こうした仕組みを全社規模で構築するためには、「人財マネジメントシステム」の導入・活用が不可欠だ。日立ソリューションズでも、現在、人材マネジメントシステムに社内のあらゆる人財データを入力・蓄積している最中である。このシステムのデータベースに格納された多種多様な人財情報は、マネージャーが自分の部下の強みや弱みを客観的に把握したり、HR部門が社員の実情に即した育成・教育プランを立てたりするのに役立つという。

 ただし、従業員にもメリットがないと、データはなかなか入れてもらえない。この点について、伊藤氏は「自分のキャリアプランのために受けるべき研修が分かるとか、自分のキャリア構築に役立つ社内の人を検索できるとか、個人の成長支援やキャリア構築に役立つ機能を提供することで、進んでデータを共有してもらえるようになる」と明かした。

人財に関するあらゆるデータの基盤となる人財マネジメントシステム
人財に関するあらゆるデータの基盤となる人財マネジメントシステム
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3つのコンセプトでニューノーマル時代の働き方を支援

 伊藤氏は講演のまとめとして、次の4つのスローガンを挙げた。

  • 変化していく社会のなかで、働き方が変わる、人財戦略も変わる
  • 従業員一人ひとりにフォーカスし、多様な個を活かす
  • データ活用により、適所適材配置やタレントマネジメントが可能に
  • アナログな“1on1ミーティング”も、たいせつに

 「特に④は、データ活用というとデータがあればそれで実現できると考えてしまいがちです。しかし、1on1ミーティングや、そうしたコミュニケーションに基づくチームの関係性構築といったアナログ部分も非常に大切であることを、常に意識することが大切です」(伊藤氏)

 さらに伊藤氏は、こうした一連の「ニューノーマルにおける働き方」を支援する日立ソリューションズのソリューション群を紹介した。

 「これらのITソリューションには、『テレワークを起点とした自由な働き方の実現』『RPAをベースにした自動化を進め、生産性を向上』『エンゲージメントを高め、従業員の働きがいを支える環境づくり』という3つの軸があります。これらを基にした非常に多くの製品やサービスをご用意しています」(伊藤氏)

 伊藤氏は最後に、「コロナ禍での急激な変化は、働き方改革のチャンスと捉え、従業員がイキイキと働ける環境をつくっていきましょう。関心のある方はぜひ一度お声掛けください」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

ニューノーマルの働き方を支える日立ソリューションズの3つのコンセプト
ニューノーマルの働き方を支える日立ソリューションズの3つのコンセプト
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著者プロフィール

  • 工藤 淳(オフィスローグ)(クドウ アツシ)

    出版社や制作会社勤務の後、2003年にオフィスローグとして独立。もともと文系ながら、なぜか現在はICTビジネスライター/編集者として営業中。 得意分野はエンタープライズ系ソリューションの導入事例からタイアップなど広告系、書籍まで幅広く。

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2021/09/09 10:00 /article/detail/3467
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