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人事労務事件簿 | #23

強引な降格を人事権の濫用として無効と判断(大阪地裁 令和2年2月27日)

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 目標未達を原因とする降格と減給。これがもし、不慣れな業務を行う部署への異動と、そこでの達成困難な目標設定の結果だとしたらどうでしょう。あなたは納得できるでしょうか。ましてや、報復人事の可能性も捨てられないとしたら……。今回紹介するのは、そうして大幅な降格と減給を会社から言い渡されたことを不服として、裁判所に申し立てた事案です。就業規則で降格のあることを定めているとしても、妥当性に欠ければ、人事権の濫用と判断されてしまいます。

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1. 事件の概要

 本件は、医療、介護、保育等の人材育成のための教育事業、介護保険法に基づく指定居宅介護支援事業等を目的とする被告(以下「Y社」)の従業員である原告(以下「X」)が、Y社の行った降格およびそれに伴う減給が無効であるとして、労慟契約に基づき、Y社に未払賃金の支払い等を求める事案です。

(1)Xの状況

 X(昭和45年生まれ)は、平成12年7月頃、総合介護サービス事業を営むZ社に入社しました。その後、Z社はG社に吸収分割され、Xの労働契約は承継されました。さらにG社は、平成21年にY社に吸収合併されました。

 XとY社との間で取り交わされた書面「旧承継会社の合併に伴う従業員の就業条件について」(以下「本件合意」)が、合意内容となっています。

 平成22年4月当時のY社における本社正社員の課長クラスの給与の目安は、月額32万5000円から40万円であったところ、Xの給与額は月額52万6000円でした。

 また、XはY社に対し、平成22年3月25日、事務部門管理職(課長代理以上)の給与設定について、年俸制(賞与なし)を希望する旨の書面を提出しました。

 Xは、約3年後の平成25年4月頃、Y社の営業統括部営業A課(以下「営業A課」)課長に就任しました。

 Xの営業A課課長就任時(平成25年4月)の担当業務は、Bエリア全ての介護ヘルスケア事業の営業推進、Bエリア全てのヘルスケア事業支店の営業推進会議、営業研修運営、Bエリア全ての介護ヘルスケア事業支店の新規開設施設の営業支援でした。

(2)XおよびA課の営業業務の状況

 Xは、Z社に在籍時、平成14年7月以降、エリアマネージャーとして取引先開拓営業、顧客獲得推進、平成15年7月以降、関西統括部統括部長代理として新規開設業務、営業推進業務に従事するなど、介護の営業の経験はありました。

 しかし、平成25年4月にY社で営業A課に配属されるまでは、総務・労務管理系の業務が中心でした。そのため、Y社における営業業務には、あまり慣れていませんでした。

 一方で、中途採用の課長補佐1名以外の営業A課の従業員たちは、X着任以前から営業A課に配属されており、Y社の介護事業やその営業経験が豊富で優秀な人材がいました。

(3)平成25年度におけるXの評価

 平成25年度上期および下期のXの評価は、いずれも5段階評価(AからEまで)のCでした。

 同年度上期はC評価の従業員が全体の42.89%、下期はC評価の従業員が全体の39.49%の割合でした。

 なお、平成26年4月時点のY社の営業統括部の課長職位者の給与について、Xが月額53万3500円であったのに対し、他の2名は月額36万2400円および月額32万6000円でした。

(4)転籍の打診と拒否

 Y社のS執行役員は、N社の担当者から同社の京都営業所の所長の適任者を探している旨の相談を受け、その適任者としてXを推薦しました。

 そして、S執行役員が平成26年4月頃、N社ヘの転籍をXに打診したところ、Xはこれを拒否しました。

 そのため、S執行役員は、Xに対し、いったん会長まで上がっている人事である旨を伝え、転籍に応じられない理由を書面で提出するよう指示しました。

(5)平成26年度におけるXの状況

 S執行役員は、平成26年4月頃、Xに、家事代行法人契約からの利用者獲得営業および介護セミナー販売営業に特化するよう命じていました。

 当時は、Y社の介護事業において、法人営業で十分な実績が上がっておらず、これから全社的に強化していこう、という状況でした。

 Xは、平成26年度上期において、上司から目標値を設定するよう指示を受けました。

 そして、Xは、①家事代行法人契約からの利用者獲得数につき年間400名、②介護セミナー開催数につき年間60回の目標設定を行いました。

 しかし、同年12月までの結果は、①Xによって締結された家事代行法人契約が6社で利用者はなく、②介護セミナーの開催が1回のみでした。

 Xは、平成26年12月頃、人事部長宛てに、S執行役員から提出するよう指示を受けたとして、上記の目標に対する成果のほか、

「営業課長として自主的に動いたが、動けていないとの指摘を受けている」
「営業課長として注意を受け、改善の努力をしている」
「現在法人営業のみに特化しており、部下の指導をしていない」

などと記載した書面を提出しました。

(6)平成26年度におけるXの評価と賃金

 Xの平成26年度上期および下期の評価は、いずれもEとなりました。

 Y社は、平成27年4月1日付けでXを降格(以下「本件降格」)しました。本件降格は、課長から、課長代理、課長補佐、係長と3段階の降格でした。

 Y社は、Xに対し、平成27年4月1日付けでG社ヘの出向を命じ、Xは、同社の関西支社係長に任命されました。

 XがY社から平成27年4月(本件降格前のもの)および同年5月(本件降格後のもの)に支給された給与の額は、次表のとおりです(以下「本件減額」)。

 また、Y社は、Xに対し、平成27年5月から平成28年12月までの間に、総額103万9500円の賞与を支払いました。

(7)Y社の就業規則

 Y社の就業規則には、以下の定めがあります。

  • 第7条(任免)業務上必要な場合は、正社員(総合職)に職制上の役割を命じ、または免ずることがある。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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