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人事労務事件簿 | #43

過重労働によるうつ病発症で安全配慮義務違反があると判断(大阪地裁 平成20年5月26日)

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 時間外労働100時間超えは、厚生労働省においても過労死の認定基準とされています。会社はそのような勤務状態にならないよう、従業員を管理しなければなりません。たとえ、時間外労働が本人の意思によるものだったとしてもです。今回ご紹介する事案は、そのように本人の意思で平均100時間を超える時間外労働を続けた結果、うつ病を発症した従業員が、安全配慮義務違反で会社を訴えたものです。上司や同僚が仕事を一部引き受けるなど、一定の配慮をしたはずがこのような事態に陥った点も含め、裁判所の判断にご注目ください。

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1. 事件の概要

 本件は、会社(以下「Y社」)において、コンピュータプログラミング等の業務に従事していた原告(以下「X」)が、同社における過重労働によりうつ状態を発症したため、同社には安全配慮義務違反があったと主張して、同社の地位を承継したY社に対し、債務不履行に基づき損害賠償を請求した事案です。

(1)当事者等

 X(昭和54年生まれ)は、G専門学校を卒業後、平成14年4月1日付でZ社に雇用されました。その後、5月27日付でソリューション統括部第三システム部において、SE(システムエンジニア)として、プログラミング等の業務に従事していた者です。

 Z社は、ソフトウェアの開発、作成等を主たる業務としていましたが、平成16年10月1日に他の関連会社とともにY社に吸収合併され、同日にY社の商号が現商号に変更されました。

(2)Xの経歴、担当業務(以下「本件業務」)

 Xは、Z社に入社後、徳島県徳島市内の本社で新入社員研修を受けた後、大阪事業所ソリューション統括部第三システム部に配属されました。

 Xは、配属後、平成16年9月までは、文書作成、開発技術の学習、調査、各種ツール作成、演習問題への回答などの自己啓発を行いました。

 同年10月以降は、製薬会社における治験の報告書作成ソフトウェア「DDworks21ver5」(以下「本件ソフトウェア」)の開発に従事しました。

 Z社では、新入社員研修を終えて現場に配属された新入社員に対し、2年間、実務を通じて教育を行うこととしており、XへのOJTは、Aが指導を担当することになりました。

(3)Xの勤務態度とそれに対する上司の指導

①Xのソフトウェア開発への高い関心

 Xは、本件ソフトウェアの開発が開始された直後の平成14年10月から同年12月ごろまでの間は、作業内容に対して非常に興味を示していました。

 XはAに対し、自分はコンピュータが好きで、自宅でもコンピュータを扱うことになるから、残業をする旨話し、同年12月ごろには、最終電車を気にせずに仕事ができるように徒歩通勤できる場所に転居するなどして、意欲的に担当業務に従事していました。

②Aによる指導と調整

 平成15年1月に本件ソフトウェアの開発が本格的に始まりました。

 Xの作業スケジュールに関しては、本件開発プロジェク卜全体で、週1回の進捗会議の中で、確認を行いました。

 また、AはXとの間で、1週間に2回程度、個人的に作業確認を行うことにより、これを見直し、AがXの作業を手伝ったり、可能な場合には、作業予定を延期してXに自力で担当させたりして調整していました。

(4)Xの勤務状況の変化

 Xは、このころから、1ヵ月に5回程度の頻度で、無断で始業時刻に遅刻をするようになりました。そのような日には、午前11時~正午ごろに出勤して夜間遅く、時には早朝近くまで勤務することが少なくありませんでした。

 Xは、「朝の起床が遅れたために、遅れて出勤した」と説明していました。

 これに対し、Aは、「仕事のメリハリを付けるためにも休んだほうが良い」旨、指導しました。

 この指導を受けXは、「同じ大阪営業所に勤務の(当時交際していた)女性(以下「E」)と昼食を取るのを楽しみに出勤しているのだから、そのようなことは言わないでほしい」旨、答えました。

 また、Aは、Xが特段の仕事がないと思われるのに終業時刻後も残業をしていたので、仕事がないなら早く帰るよう指導したところ、Xは、「Eがまだ職場に残っており、退社するのを待っているから、もう少し残りたい」旨答えたことも複数回ありました。

(5)Xの状況が改善せず

 Xの作業の遅れは、その後も改善されることがありませんでした。

 平成15年3月末から同年4月ごろには、前記の調整方法によっては、もはや対処しきれない状態となりました。

 そこで、Aは、D課長およびC班長とも相談のうえ、Z社の協力会社に勤務し、約10年の経験を有するFにXの支援を依頼し、その了承を得るなど、人員を補充することによって対処しました。

 平成15年7月には担当者が補充されたことから、Xからその者に業務を一部移管するために、作業内容を説明するための会議が開催されました。

 ところが、Xは、その会議に出席せず、しかも、他の従業員からの携帯電話への連絡に応答せずに、オフィスビルの他フロアを徘徊して時間をつぶしていました。

 一方、Aは、平成15年10月ごろに、プロジェクトリーダーに昇格しました。その前後を通じて、前記の調整方法により、日常的にXの作業を自ら手伝ったり、作業予定を延期したりしたほか、Xの業務を他の従業員に割り振るなどして、Xの業務を軽減するための調整を行いました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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