拡大するデザイナーのニーズ
——最初に、いま求められているデザイナー像と採用の現状を教えてください。
1つ目のトレンドとしては、企業からのニーズが高い“職種”としてUIデザイン、UXデザインの領域が目立っています。その背景には、デジタルサービスが活性化する中で、「もはやアプリやサービスを作るだけでは使ってもらえない」という事情があります。プロダクトやサービスを市場にローンチした後に、「ユーザーが求めている価値を提供できること」が大きな差別化ポイントになっており、「ユーザーの代弁者」としてUIデザイナー・UXデザイナーの存在価値が上がっているのです。
当社がデザイン人材のキャリア支援サービス「ReDesigner」を立ち上げて6年ほどですが、営業活動をほぼしていないにもかかわらず、デザイナーを求めて800社の企業様からお問い合わせをいただいています。その中で、求める職能はUI/UXデザインが多く、そのスキルを持つ一部の人に求人が集中しています。
なぜそうしたことが起きているかというと、企業でデザイナーを育てる環境・文化が整っていない中で、即戦力を求めるというアンバランスな状態が生じているからです。結果として、デザイナー人口が増えていかず、経験のある一部に求人が集まっているのです。
——新しい領域だけに、UIデザイナー・UXデザイナーを育成する場が十分ではないということなのでしょうか。でも、ニーズはどんどん増えており、高度化しているというわけですね。
そう思います。デザイナーが担う役割としてUI/UXの設計が認知されたきっかけは、2018年の「デザイン経営宣言」(経済産業省・特許庁)です。それまでは、本や雑誌などのグラフィック、Web領域ではロゴやホームページなどがデザイナーの仕事と捉えられていました。しかし近年では、UI/UXといったサービスやアプリの全体設計に加え、ビジネス戦略の策定や経営領域に参画するデザイナーのニーズが増えており、CDO(Chief Design Officer)というポジションも注目されています。この「経営に参画するデザイナー」というニーズの高まりが2つめのトレンドといえるでしょう。
当社では、企業のデザイン投資状況やデザイナーの働き方のトレンドを定点観測する「ReDesigner Design Data Book」を年次で発行しているのですが、その2022年版で行った調査によると、デザイン投資に効果を感じている企業は前年の70%から90%へ増えました。2019年から見てもずっと右肩上がりです。
さらに、CDO・CCO・CXO[1]などデザインエグゼクティブと呼ばれる経営に参画するデザイナーを将来的に迎えたいという企業は54%にもなっています。現在のところ、CDOとしてデザイナーが経営に参画しているケースは非常に少なく、ピンとこない人が多いかと思います。しかし、ニーズそのものはもう存在していると考えてよいでしょう。
注
[1]: CCOはChief Communication Officer、CXOはChief Experience Officer。
——経営にデザイナーが入ることで、どのような役割が期待されているのでしょうか。
役割自体は組織デザインや企業のブランディングなど、企業によりさまざまです。たとえば、経営会議など“場づくりのデザイン”もその1つです。どのような議論が交わされたら皆の目線がそろうのか、どのようなアウトプットをすればよいのかを、デザイン思考で考えて設計します。
とはいえ、切実な人材ニーズとして顕在化しているUIデザイナー・UXデザイナーとは異なり、CDO・CCO・CXOなど経営に参画するデザイナーの採用ニーズは重要度が高くとも、緊急度が高いわけではありません。しかし、デザインのエキスパートが経営に参画することで組織の生産性や創造価値が高まることが認識され、そうしたポジションの重要性も確実に認知されてきているように思います。