アルムナイコミュニティとは
——近年、企業においてアルムナイが注目されています。あらためて、アルムナイやアルムナイコミュニティについて教えてください。
「アルムナイ」のもともとの意味は、大学や学校の卒業生です。最近では、企業を辞めた人もアルムナイと呼ばれるようになりました。私たちは、企業の退職者かつ現役で働いている方々を「企業アルムナイ」(以下、アルムナイ)と定義しています。
これまでも、同じ会社を退職した人たちの集まりはありました。終身雇用時代によく見られた「社友会」などです。しかし、転職が当たり前の時代となり、主に定年退職者が参加する社友会とは別に、対象をビジネスなどで現役の退職者に限定した「アルムナイコミュニティ」を新しく立ち上げる企業が増えてきました。
——アルムナイコミュニティは、どのような目的で運営されているのでしょうか。
大前提として、アルムナイコミュニティには会社主催と卒業生有志主催の2タイプがあり、それぞれ目的も異なります。
会社主催のアルムナイコミュニティでは、採用を目的に掲げているものが目立ちますが、出資や提携、オープンイノベーションなどを意図するケースも見られます。一方、有志が運営しているアルムナイコミュニティでは、緩やかな交流会や勉強会を中心としたものから、営業やキャリア・採用、資金調達、提携など、参加者同士の直接的なベネフィット共創まで踏み込むケースもあります。
コミュニティ運営で最も大切なのは「相互利益」
——高橋さんが発起人のソニーグループの有志アルムナイコミュニティ「Sony-innovation-alumni」は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
価値やニーズがあると考えたからです。多くのソニーグループの出身者が社会で活躍しています。そういった人たちをつなげると、みんなにとって価値がありそうだと考えました。また、これまでにいくつかのアルムナイたちの集まりは存在しており、ニーズも感じていました。ただ、私の理解では、持続可能に運営されているアルムナイコミュニティはなく、かつて活発だった集まりも自然消滅していて、「もったいない」と思ったのが発端です。
当時私は、14年にわたり複数のコミュニティを立ち上げ、運営していたコミュニティの専門家で、自分なら持続可能なアルムナイコミュニティを立ち上げ、活性化できると考えました。手間はそれなりにかかるものの、参加者に価値のあるアルムナイコミュニティをつくれば、みなさんに感謝され、結果として自分にも価値が返ってくることを知っていたので、立ち上げに踏み切りました。
その際、会社との連携を公に示したほうが、卒業生としても安心して参加できると考えました。そこで、仕事でごいっしょしていたソニー社員に、ソニーグループ公式の卒業生組織「ソニー友の会」を担当している部署を紹介してもらいました。それで、会社に趣旨を説明し、バックアップしてもらえることになったのです。
Sony-innovation-alumniの立ち上げにあたっては、目的、参加資格、行動指針などを簡潔な文章[1]にして、会社とも合意しました。「参加者に実利をもたらすこと」「世に価値を生み出すこと」を趣旨として、多様な人が多様なベネフィットを実現できるフラットな場、未来志向で新たな価値を共創する場をつくることを掲げました。
注
[1]: note「ソニー有志アルムナイ立ち上げにあたって」
——立ち上げの際に、コミュニティの目的を定めることは重要なのでしょうか。
コミュニティを運営するうえで最も大切なのは、相互利益です。コミュニティはあくまで自主的な活動で、会社組織のように、指揮命令で人を動かすことはできません。会社ができるのは、コミュニティに参加したくなるような、特別な価値が伴った提案まで。アクションするかどうかは、卒業生の判断に委ねられます。
自社の課題解決のために、企業が主催するアルムナイコミュニティでも同様です。たとえば、目的がカムバック採用であるなら、彼らの自発的な行動を促す価値設計とコミュニケーションを行い、求人に応募するまでの導線を考える必要があります。