働きづらさを感じる共働きの従業員
——貴社のサービスを利用する共働きのユーザーからは、転職理由としてどのような声が寄せられますか。
大きく2つあります。1つ目は、「今の職場環境では働きづらい」という声です。
現代の共働き世代には、男女が公平に育児や家事を分担し、女性もフルタイムでキャリアを継続するという新しい価値観が広がっています。この価値観を持つ人たちを、当社では「共働き3.0世代」と呼んでいます。
しかし、多くの企業では依然として、正社員であっても女性が育児や家事の主な担い手であるという価値観(共働き2.0)にとどまっています。そのため、育児支援の人事制度があっても対象者が女性だけであったり、子どもが生まれた男性に対して、生まれる前と変わらず長時間労働や出張などを求めたりする傾向があり、結果的に育児や家事の負担が女性に偏っているのが現状です。
つまり、従業員は新しい価値観に移行しているにもかかわらず、企業が適応できていないことから、共働きの従業員が働きづらさを感じてしまい、転職を考える一因となっているのです。
2つ目は、「働きがい」を求める声です。たとえば、小さな子どもがいることを理由にリモートワークを認められていたとしても、出社している同僚と比べてコミュニケーションの機会が減少し、疎外感を抱くことがあります。また、育休後に希望する部署に配属されなかったという声も少なくありません。こうした要因が積み重なり、より働きがいを求めて転職につながるケースは多いです。
企業と共働き世代に広がる価値観のギャップ
——企業と共働きの従業員との間で価値観の違いが生じているのですね。
そうです。主な原因としては、企業が考えるスタンダードな働き方が、「長時間出社して働く人を優遇し、評価する」のままだからだと思います。
これまで子どもがいる女性は、時短勤務で早く帰ることが一般的であり、彼女たちは組織内で比較的マイノリティでした。そのため、企業は「子どもが小さいうちは仕方がない。彼女たちができる仕事のみを与えよう」という姿勢をとっていました。
しかし、男性も育児や家事に積極的に参加するようになった現代の共働き世代では、かつてはマイノリティであった「子育て中」という属性が男性にも広がっています。結果として、組織内で働きづらさを感じる人たちの比重が増えており、企業側と従業員の間で価値観のギャップが広がっているのです。
——どうして企業は価値観をアップデートできずに、従業員とのギャップが生まれてしまっているのでしょうか。
これは想像に過ぎませんが、企業の上層部には「家事や育児は女性に任せて、男性は仕事をがんばるべき」というカルチャーが根強く残っているからだと思います。それが伝わる共働きの従業員は、自分の価値観を理解してもらえないと感じてしまうのでしょう。
私たちが転職サポートをしたある男性は、企業に対して「このままだと妻の家事や育児の負担が大きすぎるから、今の環境で働き続けるのは難しい」と伝えた際に、「あなたはこれから会社を担っていく立場だから、家族のためにももっと仕事をがんばるべきだ。むしろマネージャーに昇進してほしい」と言われたとのことでした。
また、別の会社で働く男性からは、共働きで育休から復帰したあとに、役員から「奥さんが働かなくても養えるよう、彼にはたくさん活躍してもらおう」と発言されてモチベーションが下がってしまった、という話を聞きました。こうした話からも、働く側と企業との間で価値観にすれ違いが存在していることは明らかです。
現在、多くの企業で男性の育休取得やフレックスタイム、裁量労働制といった制度を導入しており、それは非常にすばらしい進歩です。しかし、家庭の状況は人によって異なるため、企業は共働きの従業員が持つ個々の多様性を理解し、受け入れることが必要なのです。