まずは「組織さん」がどうなりたいのかを考える
Q4:組織開発でまず最初に意識すべきことは何ですか?
マンダラ図によって打ち手を可視化できた。では次に、何を意識して組織開発に取り組めばよいのだろうか。小金氏が心がけているのは、組織を「組織さん」と呼んで擬人化することだという。
「組織開発では、組織こそが『最大の顧客』だからです。向くべき対象は、組織そのもの。そこで、組織さんとして組織を擬人化して捉えると進めやすくなります。まずは『組織さんが今どんな状態なのか』『組織さんがどうなりたいのか』『組織さんがどうしたらより良くなれるのか』を考えることが大事です」(小金氏)
さらに小金氏は、組織の状態を把握するための基本動作として、社員ヒアリングが重要であると説いた。小金氏自身もZOZOに中途入社した際には、組織の声を聴くために社員ヒアリングを実践したという。質問は、「あなたはどんな方ですか」と「どんな会社に見えていますか」の2つ。前者では本人のキャリアや仕事観を、後者では会社の良さと改善点を聞いたと振り返る。
「社員ヒアリングは、『組織さん』の声を聞くということ。組織開発で何をしたらよいか分からない人は、まず社員ヒアリングから始めるのがよいと思います」(小金氏)
打ち手の「決め方を決める」ことが重要 おすすめの「太巻きモデル」とは
Q5:打ち手の優先順位はどうやって決めていますか?
5つ目は、打ち手の順番に関する質問だ。小金氏は、「基本的には、組織の状態や規模感、ビジネスモデル、目指している組織像もさまざまなので、順番に正解はありません。ただし、優先順位の『決め方』を3つ決めています」と回答した。
まず1つ目が、「対話と合意形成」だ。組織開発には「必ずやるべきこと」はほぼなく、「やらないよりはやったほうがよい」ことがほとんど。裏を返せば、正解がないからこそ、関係者との対話で決めることが重要となる。
「過去に管理職育成に取り組んだときは、人事や管理職自身と対話を進め、マネジメントは『4階建て』で進めていこうと図式化・言語化、『自社の管理職育成はこのように進められるとよい』と合意しました」(小金氏)
2つ目の決め方が、Fact(事実・データ)、Issue(問題・課題)、Action(改善・解決)の「FIA」だ。このサイクルを回すことで、対話と合意形成が円滑に進むのだという。
「このサイクルを活用して、組織開発プランニングシートを作成しています。まずは、『組織で何が起こっているのか』を把握するために、定量と定性のデータを数多く集める(Fact)。そして、氷山モデルというフレームでいま1番問題になっていることを深掘り(Issue)、登山モデルという解法のフレームをつかうことで問題解決を目指せます(Action)」(小金氏)
Q6:そうはいっても「大事な順番」みたいなのはないんですか?
組織開発は「対話と合意形成するしかない」「事実→課題→解決のサイクルだ」と説明しても、「そうはいっても大事な順番はあるでしょう」とよく聞かれると小金氏。そう質問されたときはいつも、決め方の3つ目として「GPRI(グリッピー)」というフレームを紹介しているという。
GPRIとは、Goal(目標)、Roll(役割)、Process(手順)、Interaction(関係性)の頭文字を取ったもの。Goalがミッション、ビジョン、バリューや経営戦略・組織目標の実現だとすると、Rollは担当業務や個人の目標に、Processは中期計画やロードマップに、Interactionはそれを達成するための連携手段や頻度となる。GPRIもまた、上から順番に「対話と合意形成」を進めることが重要だ。
「次図は、カルチャー変革を目的に、打ち手をGPRIに当てはめたものです。上から順番に手を打っていくと、うまく全社がチームビルドされるように半期ごとに並べています。開始時の2024年上期には、GoalとRollだけでなく、Interactionとして『1on1強化』も行っていますが、これはどの時期でも組織に対話は大事であるという考えから、いち早く実施するイメージで描いています」(小金氏)
「対話と合意形成」「FIA」「GPRI」の3つをまとめ、小金氏は「太巻きモデル」と命名している。対話と合意が酢飯、FIAが海苔、GPRIが具材というわけだ。この3つを常に頭に巡らせながら打つべき手を考えていくことが大事であると小金氏は力説した。
さらに小金氏は、「グレイナー組織の成長モデル」も取り上げる。
「組織は規模や事業フェーズに応じて、成長のドライバーと乗り越えるべき障壁が変わります。1つの危機を乗り越えるたびに、その乗り越える力になったものが次の課題を生み出す、「波」「うねり」のような力学が働くのです。逆をいえば、組織開発ではこの点を意識することで、次に起こることをある程度想定して手を打つことも可能になります」(小金氏)