職能型の限界、グローバルベースの人事制度が急務に
―ジョブ型を導入する前の人事制度について、どのような課題があったのでしょうか。
以前の人事制度には、主に2つの課題がありました。
1つ目は、国内で採用していた職能型人事制度に限界を感じていたことです。この制度は、社員の保有能力に基づいて業務をアサインし報酬を決定する仕組みですが、実際の運用では年功的な傾向が強く、過去に発揮した成果に対して処遇するケースが多くありました。そのため、現在の役割と処遇が必ずしも一致せず、包括的な人材活用の難しさが課題となっていました。
2つ目は、グループ内での人事制度が統一されていなかったことです。国内関係会社や海外の子会社では、それぞれの歴史や設立経緯によって異なる人事制度を運用していました。これにより、グローバルレベルでの人材連携や国をまたがった一貫性のある人事管理ができていませんでした。
―そのような課題がある中で、ジョブ型を導入することになった背景を教えてください。
まず、デクセリアルズの売り上げの70%以上が海外であることから、国内外の垣根を超えたグローバルな連携と最適化が不可欠でした。社長からも、「グローバルベースで仕組みを整えてほしい」という方針が示され、国内外で統一された人事制度の導入が急務となっていたのです。
また、社員と会社が互いに選び、選ばれる対等な関係にしたいという思いがありました。私たちが目指すジョブ型は、単に「決められた仕事をこなす」ことではありません。デクセリアルズグループ内でキャリアの機会をグローバルレベルで提供し、多様性を尊重しつつ持続的に成長できる環境を整えること。そして従業員が自らスキルを高め、企業と共に成長していけるパートナーシップのような関係構築を目指したいと考えていました。
―では、ジョブ型の人事制度を設計する際に工夫したことはありますか。
制度の設計にあたっては、まず新しい中期経営計画の策定過程で「会社としてのありたい姿」をディスカッションし、パーパス(存在意義)を策定。その10年先、20年先を見据えた会社の姿から、バックキャスト視点で戦略を立てました。
そして、会社の戦略に基づいた、必要な機能や組織を設計し、ジョブを再定義しました。ジョブディスクリプション(職務記述書)を経営層から一般社員まで順に作成し、各自の役割を明確にしたのです。たとえば、上司の職務定義書には「人材育成」の項目を含め、具体的な目標とレベル感を設定しています。
ジョブを明確にすることで、組織の現状(As is)と目指すべき姿(To be)の差分も可視化されました。それを採用戦略や人材育成計画に活用しています。たとえば、社員1人ひとりの育成や成長のニーズに応えられるよう選択型の研修制度も整備し、社内で補えない部分は外部から人材を確保する方針を立てています。