3. 要点解説
(1)賠償予定の禁止について
労働基準法16条では以下のとおり規定しています。
(賠償予定の禁止)
- 第16条使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
今回は、専属マネジメント契約において、本件違約金条項が定められており、専属マネジメント契約の義務違反があったため、Y事務所はXに対して違約金を求めました。
ただ、Xは、実態から契約は労働契約であり、Xの労働者性が認められるため、労働基準法16条の賠償予定の禁止に基づき、本件違約金条項が無効と主張し、裁判所はXの主張を認める判断をしました。
(2)労働者性について
労働基準法第9条では、「労働者」を次のとおり規定しています。
- 第9条この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
そして、労働基準法の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は、次の2つの基準で判断されます。
- 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
- 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼ばれており、使用従属性が認められるか否かは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。
この具体的な判断基準は、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)で、次のとおりとされています。
1「使用従属性」に関する判断基準
-
「指揮監督下の労働」であること
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 拘束性の有無
- 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
- 「報酬の労務対償性」があること
2「労働者性」の判断を補強する要素
- 事業者性の有無
- 専属性の程度
- その他
今回の裁判では、上記の基準に基づき、Xの労働者性の該当の有無を検討し、労働基準法の労働者に該当すると判断しました。
そのうえで、専属マネジメント契約の本件違約金条項が労働基準法第16条に違反し、無効であると判断しました。