“コーチングブーム”の裏でストレスが溜まるマネージャー
コーチングは、マネージャーとメンバーの信頼関係を築き、エンゲージメントを高めるための重要なコミュニケーション方法として、ここ最近大きな注目を集めています。
しかし、支援している企業の担当者やマネージャーに、「コーチングって何をすることですか?」と質問しても、その内実を回答できる人は非常に少なく、ブームとのズレを感じずにはいられません。
コーチングとは、「教えない」「アドバイスをしない」ことを前提として、「相手が自分の取り組みを自ら決めて、実行する」ことを促す取り組みです。
私自身は、コーチングは“使いこなせるなら”非常に有効な手段だと考えています。しかし、この記事で紹介するポイントを押さえていないと、マネージャーのストレス増大につながる諸刃の剣となりえます。
当社が提供している1on1支援ツール「コチーム」の1万2000人分(規模・役職・業界不問)のデータを調べると、「コーチングをできるようになってほしい/できるようになりたい人」は全体の人事・管理職のうち76%を占めていますが、その中で、実際の1on1の運用でコーチングを日々実践できている上司はわずか8%しかいませんでした。
また、「会社から1on1について部下との接し方について、強制・任意にかかわらず指針がある」かつ「コーチングをやらなければいけないと考えている」と答えた管理職のうち、「コーチングの実施頻度」が少ない人は、「1on1に対する満足度が低い」傾向もありました。
つまり、「部下の接し方を、会社からそれとなく指定されていて、自分もコーチングしたほうがよいと思っているが、1on1では、部下に対して『会社が求めるような理想的な接し方』が実現できていない」ことで、1on1におけるマネージャーのストレスになっている可能性が高いわけです。
1on1の定着が難航する原因の1つとして、「経営・人事サイドと、マネージャー自身が、コーチングに過剰な期待をしている」点が見えてきます。
1on1の定着を阻む「コーチングへの過剰な期待」
1on1を解説している書籍にも多く記載されていますが、1on1の構成要素として、「コーチング」「ティーチング」「フィードバック」が存在します。
とりわけコーチングは、メンバーの自発性を引き出し、成長を促すための手法としてスポットライトを浴びている一方、過度に重視されるあまり、マネージャーにやんわりと押し付けられているケースが増えています。
1on1の運用を担当するチーム(多くは人事)も、会社のためによかれと思って「なるべくメンバーの意見を基にして、自発的な行動につなげてもらう」ためにルール化するわけです。しかし、このルールだけでは、日本の多くのマネージャーはメンバーを自発的な行動につなげることはできません。
前回の「マネージャーを苦しめる「うまくいかない1on1」 人事が知っておくべき1on1の"大きな誤解"とは」の中で、「メンバーの話を聞かないといけない」とルール化された状況がマネージャーを苦しめるとお伝えしましたが、この背景には「コーチング」に対する過度な信奉があると、日々1on1を支援する中で痛感しています。
コーチングでは、「何をしたい?」「どうありたい?」といった質問を通じて、メンバーの内発的動機を引き出すことを目的とします。しかし、「メンバーが会社の期待や目標を明確に理解していない状況(←ここがポイント)」では、これらの質問に適切に答えられる部下は30%ほどしかいません。
その結果、コーチングは“合理的”に失敗に終わり、マネージャーからすると「なかなか答えが引き出せない。自分のやり方が悪いのだろうか。1on1って本当に効果的なのだろうか」と自責的に捉えてしまうのです。