1. 事件の概要
被告大学(以下「Y大学」)D学部D1学科に所属する教授職にある原告ら(以下「X1」「X2」「X3」)が、専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更が無効であり、時間外労働、休日および深夜労働に係る賃金が支払われていないと主張して、未払賃金の請求等を行いました。
今回はさまざまな争点の中から、専門業務型裁量労働制の労使協定について取り上げます。
(1)当事者等
Y大学は、松山大学および松山短期大学を運営する学校法人です。
Y1は、Y大学のD学部D1学科に所属し、教授職および常務理事の職にある者です。
Xらは、Y大学と労働契約を締結しており、Y大学のD学部D1学科に所属する契約期間の定めのない教育職員です。
またXらは、全国一般愛媛地方労働組合松山支部(以下「本件労働組合」。本件労働組合の松山大学分会を「本件労働組合分会」)に加入しています。
X1およびX3は教授職に、X2は教授職およびD学部長職にある者です。
(2)Y大学における過半数代表者選出の手続等について
Y大学における過半数代表者選出等に関する規程は「学校法人松山大学における労働者の過半数を代表する者の選出等に関する規程」(以下「本件過半数代表者選出規程」)のとおりです。
本件過半数代表者選出規程は、Y1大学の職員(事務補助職員および臨時職員を除く)で組織される教職員会(以下「本件教職員会」)が作成したもので、過半数代表者選出等に関する必要事項を定めており、過半数代表者の選出選挙を行うため、過半数代表者が指名する者1名を含む5名の委員で構成される選挙管理委員会を置くこと、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなすことなどの定めがあります。
Y大学では、平成30年4月1日当時、347名の教育職員(うち非常勤156名)、179名の事務職員(うち事務補助職員45名)が勤務していたところ、本件教職員会には、同月9日当時、93名の教育職員および124名の事務職員が加入していました。
(3)就業規則の改正、過半数代表者の選出ならびに労使協定締結の経緯
①平成30年の専門業務型裁量労働制に関する労使協定の締結
平成29年4月25日、平成29年度の過半数代表者選出選挙が実施されました。
立候補者がE教授のみであったため、信任投票が行われたところ、選挙権者数は493名、信任票が124票、不信任票は0票であったことから、本件過半数代表者選出選挙規程15条2項の適用により、投票をしなかった選挙権者は有効投票による決定に委ねたとみなされ、E教授が平成29年度の過半数代表者に選出されました。
Y大学とE教授は、平成30年3月16日付「専門業務型裁量労働制に関する協定書」に署名押印しました。
松山労働基準監督署の労働基準監督官は、同年10月12日、Y大学に対し、本件過半数代表者選出規程14条2項および15条2項について、「労働者の過半数の代表者を選出する際は、当該労働者の過半数が当該代表者の選出を支持していることが、より明確になるような民主的な手続きによって選出されるよう改善をお願いします」と記載された指導票を発出しました。
②平成31年の専門業務型裁量労働制に関する労使協定の締結
X1は過半数代表者への立候補を目指して推薦者を募りましたが、大学幹部のY1らが教職員に対して介入的な働きかけを行い、公正な選挙の実施に疑義が生じました。
その結果、当初の選挙手続きは無効とされ、選挙管理委員会も解散に至りました。
その後、大学は新たな選挙管理委員会を設置しましたが、その構成が規程に違反しているとの指摘がありました。
そうした中で実施された選挙により、J教授が過半数代表者に選出されましたが、Xらが選挙の透明性に異議を申し立てました。これに対し、委員会は異議を認めず、詳細な説明も行いませんでした。
最終的に、平成31年3月27日、J教授と大学の間で専門業務型裁量労働制に関する労使協定が締結されました。